教育基本法改正問題
2006年 05月 12日
■西葛西にある映画専門学校、東京フィルムセンター・スクール・オブ・アートで90分の講義を2回。最近「寝ずの番」を監督したマキノ雅彦(津川雅彦)氏が名誉校長になっている。
ずっとしゃべりづめであったので、声がかすれてしまい、生徒に水をもってきてもらった。この4月に入った新入生で、映像関係の仕事につきたい若者たちだ。映像のもとになるのは言語であり、言語がいかに大事であるかを、いろいろな角度から話した。
俳優志望の人もいたりで、一部生徒にはややむずかしかったかもしれないが、これは基礎中の基礎であると力説した。映像志望というのに、シナリオを一度も読んでない人が多いことに驚いた。とにかく活字を読むことから始めるように、そのためには図書カードをつくるようにアドバイスしたが、実行するであろうか。実行する人にこそ成功の女神がほほえむ可能性が強いと思うのだが。
■教育基本法の改正問題で、興味深いやりとりをテレビで見た。朝日ニュースレターの「ニュースの真相」という番組で、本日の聞き手は葉千栄東海大学教授。中国出身だが、達者な日本語と該博な知識で相手に迫り、聞かせる。別の日には韓国女性もキャスターの一人になっているが、いずれも日本人と日本について深く広い知識をもっていて、驚く。
「国際化社会」がこういう形で実現しつつあるのだろう。この番組には、与野党の指導者クラスもよく出ており、時間をかけて聞き手がじっくり聞き出すので興味深い。
■本日は公明党の浜四津代表代行。教育基本法など日頃あまり興味をもってこなかったので、内容もよく知らなかったが、この番組で概要や成立の事情などもわかった。
戦前の教育勅語による「軍国主義教育」の縛りを説くためにも、新憲法にのっとった教育基本法が必要であり、今に至っていると浜四津氏はかたっていた。それはわかるのだが、今なぜ新しく改正する必要があるのかという葉教授に問いに、きちんと答えているとはいえなかった。
■昭和22年制定当時はGHGのなかのリベラル派を代表する民政局の将校たちが主導してつくられた。そこに日教組がからみ、「偏向教育」が行われた、と今回の改正を提議した人たちは考えているのかもしれない。
文部省と日教組がスクラムをくんで行ってきた「戦後教育」が今の子供たちのモラルのなさの原因であり、だから基本法が改正して、子供たちを規律をまもり、国を愛する国民に……というのだろうが、子供ばかりではなく国民全体がおかしくなっているのは、教育だけが原因ではない。物物物を追求してきた社会の価値観が歪みに歪んだ結果、モラルの荒廃が起きているのである。問題なのは、物物物を追求し「勝ち組」となり「既得権益」を得ている人たちが指導層になっていることである。
ここを正さなければどうにもならないのに、自分たちの不利になりそうなことは、当然のことながら正そうとしない。そんな指導層を頭にいただいている社会のモラルが、急に良くなるはずもない。
■戦前、宗教弾圧にあった創価学会を母体とする公明党が、精神世界になじまない法律制定の進め役になっているのは奇妙な気がする。共謀罪しかりである。
葉教授の話ではじめて知ったのだが、先進諸国には教育を法律で律するようなものはなく、その点、日本は特殊である。教育に関する法律があるのは社会主義国や発展途上国などであり、この種の国々では民族主義、愛国主義教育をすすめるためにあるのだという。
■精神の領域に属することは法律で規定すべきでないというのが、自由主義先進諸国の「常識」であるのだが、どうも日本はそうではないようだ。日本の「特殊」性と浜四津氏は逃げていたが、戦後60年以上が経過しても、この類の法律があるということは、日本がまだ「自由度」において欧米先進国のレベルに達していない証拠といえるだろう。