コラム


by katorishu
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自殺者、8年連続で3万人を超す

 5月12日(土)
■東京は季節が逆戻りしてしまったかのようで、肌寒く冷たい雨降りの一日。このところ運動不足で体重が63キロと「理想の体重」を2キロオーバーしているので、小一時間は歩こうと思っていたのだが、雨の中を歩く気はしない。
 渋谷で仕事の打ち合わせ。久々にラジオドラマを書くことになる。

■毎日新聞ウエブ版によると、2005年度も自殺者の数が3万を超える見込みだという。これで8年連続で3万人を超える。24万人。いろいろな理由があるのだろうが、「格差社会」が原因と指摘する識者も多い。
 24万の背後には、家族や友人たちが100万、200万といるはずである。また自殺未遂者はその数倍、自殺をしたいと思っている人は何十倍になるかわからない。個人の問題ではあるが、同時に社会の問題でもある。それ以前の社会ではこれほど多くの自殺者は出なかったのだから。ぼくの知り合いで自殺した人も、多くはバブル崩壊後に試みた方々である。ずべて中年男性で経済的理由で自死した。

■イラクで10万人以上が殺されたと、以前新聞に出ていたが、24万人である。自ら命を絶つ。人から命を絶たれるのも悲惨だが、自ら命を絶つほど追いつめられた人も悲惨さに変わりはない。経済的に追いつめられ死を選んだ人は、ある意味で「社会が殺した」といえなくもない。

■少子化対策も重要かもしれないが、いっこうに減らない自殺者対策も、政治が真剣にとりくまなければならない問題だ。しかし、こういうことは議員にとって「票」にならないので、おざなりになってしまう。その社会が良い社会か悪い社会かをはかる尺度はいくつかあるが、そのひとつは自殺率であると思う。自殺者が多い社会が、良いわけがない。歪み、暖かさを失っている証拠である。

■今後、「団塊の世代」が大量に退職することを考えると、老齢者の自殺が急増するのではないか。地域社会の温もりがすくなくなり、家族もばらばら、みんな自分のことしか考えない無責任社会になると、弱い層にしわ寄せがいく。心身ともに衰え、収入もへる高齢層は、おしなべて弱者である。この層が増え、若年層が減れば、自然の成り行きとして、年金なども破綻する。

■医療保険なども破綻しはじめると、それらと深い縁のある高齢層は深刻である。年金なし老人も相当数いるし、手厚い保護のある共済年金などに比べ、国民健康保険など、もらえる金額は「雀の涙」である。一部富裕層をのぞいて、多くの高齢者は資産などもほんのわずかであるか、ないひとが大部分である。

■昨日、近くのスーパーにいったところ、高齢層が多かった。外見からでは断定はできないものの、非常につましく、生存ぎりぎりのところで暮らしている人など、ある程度わかる。そんな人たちを何人も見かけた。50円、100円の買い物をするにも考え込んでいる。表情は暗い。レジで前にいた老女は、100数十円のお金を出すのにずいぶんと時間がかかっていた。ようやくだした蝦蟇口の中身が見えてしまったが、小銭が入っているだけだった。

■そういう人は一様に人のよさそうな顔をしている。強欲な顔は富裕層か安定層に多い。現に近くのコーヒー店で何人か集まって海外旅行やグルメの話をしているお年寄りに、あまり人の良さそうな顔はすくない。凛とした表情の人は貧困層にも富裕層にも、ほとんどいない。
 人間、何十年も生きていると、生き方が顔に出るものである。ぼくはどうも昔から、人のよさそうな底辺層の人にシンパシーを感じてしまいがちだ。もちろん、底辺層だからいいというのではない。そういえば「清く正しく美しく」などという言葉もあったが、今や完全に死語となっている。
 つましく、ささやかに、ひっそりと生きている人たちが、自ら命を落とすような事態にだけはなってほしくない、とあらためて思ったことだった。
 
by katorishu | 2006-05-14 01:43