地球規模での深刻な環境破壊
2006年 05月 15日
■『文藝春秋』の6月号に解剖学者の養老孟司氏とUCLA地理学教授のジャレド・ダイアモンド氏の対談「江戸の知恵が文明崩壊を救う」が載っていて、興味深く読んだ。ダイアモンド氏は『文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの』(上下巻・草思社刊)の著者で、かつて繁栄を極めた文明や社会が、なぜ、どのように滅びたかを、本書で論じているという。
■簡単に読めそうな本ではないが、時間があれば読んでみたい。ダイアモンド氏によれば過去の文明崩壊の潜在的な要因は「環境被害」「気候変動」「近隣の敵対集団」「友好的な取引相手の変化」「環境問題への社会の対応」の5つだとする。
日本は江戸時代からひきつづき国土の8割近くが森林でしめられているので、先進国の中では自然環境は一番恵まれている。そのため、地球的な環境悪化に無関心の人も多い。例えば日本が大量に輸入する木材の供給地である東南アジアの森林地帯は急激に悪化しているようだ。いつか記したが、日本人がエビを食べれば食べるほど、アジアのマングローブが消えていくのである。
■個人のエネルギー消費量の増加と環境悪化は正比例していると考えてよいだろう。アメリカ人のエネルギー消費量がダントツでトップだが、日本人の消費量も多い。現在、中国の5倍であるという。中国の経済がこのまま発展し、仮に日本人と同量のエネルギー消費をするようになると、全世界の石油消費、金属消費は今の2倍になるという。、「そのとき地球にどんなことが起きるか、あまり想像したくありません」とダイアモンド教授は語っている。
■恐ろしいことに、明日から人類一人一人がエネルギー消費量を今までの半分にしたとしても、大気中の一酸化炭素濃度は今後50年間増え続けるという。ダイアモンド教授は、民主主義の特徴のひとつとして、国民の総意を大事にするので物事を「長期的」に決める傾向が強いが、環境保護にとってはじつは、これがくせ者だという。近代的な民主主義では数年ごとに選挙が行われるので、政治家はそのつど選挙にどうやって勝つかということにきゅうきゅうとしがちであり、票にならない環境対策は疎かになるというのである。
■じっさい、京都議定書にアメリカが批准をしなかったが、これもブッシュ政権が選挙のことを考えビジネス界に配慮したためであるという。「競争原理主義」のもとでは、環境を考慮すると、高コストになり競争に負ける。法律でしばれば多少のブレーキになるにしても、環境に良くても企業の競争力を弱める法律の制定そのものにブレーキがかかってしまう。
現在日本政府もアメリカ式の競争原理を積極的にとりいれているが、環境にとってはまずい選択である。
■どんなに会社が儲かり、数字の上で利益をあげようが、自然環境が悪化すれば元も子もないのだが。今後の展望についてダイアモンド教授は最悪のケースとして、世界全体がハイチのように貧しく人口過密に陥るか、ルワンダのように内戦状態が続くという予測をたてている。
環境問題にあっては最悪の事態を想定して対策を進めるべきだろう。しかし、世の指導者はどうもそういうことに関心が薄いようだ。関心をもっていても目の前の利得に追われ、対策は常に後手後手か、無視である。
■日本の国内だけに目を向けていると気づかないが、例えば中国ではこの20年で農地が半減する一方でゴミの再利用もほとんどされず、都市の3分の2以上はゴミに囲まれているそうだ。一人あたりヨーロッパ人の倍の石油を消費するアメリカの環境悪化も相当なものらしい。
アメリカと中国の動向が大問題である。政治や軍事面ばかりではく、環境問題でもこの2国が今後の世界の命運を左右する。比較的自然環境の良好な日本こそ、もっと積極的にイニシアティブをとって環境破壊から地球をすくう手だてを考えるべきだろう。
■ODA等の資金がろくでもないダム建設などに使わているようだが、使い方を完全に間違えている。
それにしても、最近、九州などでよく報告されている中国の黄砂に、土壌を肥やす養分が含まれているというのは初耳だった。もっとも科学汚染物質も同時に含まれているのだが。水と空気は、人が生きるための基礎の基礎なので、先行きが気になることである。