コラム


by katorishu
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監視国家の怖さ

 5月21日(日)
■すでに消滅したが「ドイツ民主共和国」という国があった。ナチスドイツ消滅後、ドイツはアメリカ、フランス、イギリスなどの占領軍が統治する西ドイツと、ソ連の統治する東ドイツに分断された。ソ連の支配下に置かれたのが「ドイツ民主共和国」つまり東ドイツである。
 その後、ベルリンの壁なるものがソ連の命令で築かれたが、1989年、まだしばらく続くと思われた壁は崩壊した。ついで「革命の総本山」のソ連帝国も崩壊した。

■「ドイツ民主共和国」俗に「東ドイツ」を支えていたのは、シュタージュという秘密警察である。秘密警察というと独裁国家につきものだが、東ドイツのシュタージュの徹底ぶりは、主人のソ連のKGBも顔負けである。
 ヒトラーの第三帝国には国民の2000人に一人にゲシュタポがいた。スターリン時代のソ連には5800人に一人のKGBがいた。一方、東ドイツでは63人に一人の割合でシュタージュないしこれに協力する密告者がいたという。隣人が密告しあうことが日常化しており、一説には国民の6人に一人がなんらかの形でシュタージュの手先であったという。

■仕事の関連で資料を読んでいるのだが、これが「民主共和国」を国の名前に冠していた国かと、驚き、あきれ、怒りを覚える。
 現在シュタージュに匹敵する秘密警察を擁しているのは北朝鮮だろう。ここも「民主人民共和国」を国の名に冠している。偽善もいいところである。中国も公安組織が全土を網の目のようにおおっている。シュタージュほどでないにしても、ソ連のKGBを真似た組織であり、言論封殺機関といっていいだろう。
 本日読んだ本のなかに「良心にさいなまれることのない変質者は軍の司令官や政治家として抜群に力を発揮する」(『監視国家』アナ・ファンダー著)という言葉があった。

■シュタージュの指導者の内務大臣のことを直接指しているのだろうが、ヒトラー、毛沢東などのことがすぐ思い浮かぶ。
 公安や秘密警察が力を発揮する国家には絶対してはいけない、と改めて思ったことだった。言論の自由のあるところに独裁は成立しない。
 従って言論の自由をすこしでも制限しようとする権力者の動きには過敏になる必要がある。その芽が見えただけで、すぐにつぶさないと、育ってくる場合がある。
 今の日本で芽が少しずつ伸びてきているような気がする。要注意である。
 警察国家は典型的な官僚統制国家である。官僚のひとりひとりは、善良な人が多いのだが、官僚は制度に忠実な人間である。いったん法律などの制度ができてしまうと、善意にもとずき熱心に、意欲的に「体制にたてつく人」や「その可能性のある人」を排除する。真面目な官僚ほどそうする。

■官僚統制に賛意を示す人がネットの掲示板などにあふれているが、これが多数派になっていくとしたら、怖い。匿名なのでどんな人が書き込んでいるのかわからないが、思慮が浅く、人間への優しさを欠いた欲求不満分子なのだろう、と推定するしかないが。
 ごく一部の人間であると思いたい。

■過激なことを書き込んでいる人の素顔は、案外気弱で、人前で自説を主張する度量も勇気も持ち合わせていないのではないか。ぼくはこれまで、専門学校や大学で20前後の若者に接してきたが、雑談の折にでもそんな過激な言辞をろうする人に出会ったことがない。
 人の前ではおとなしい彼等のうちの何人かが、匿名だと牙をむくような暴力的な発言をするのだろうか。それとも、もっと壮年、中高年が書き込んでいるのかどうか。
 一度、彼等の素顔が見たいものである。ああいう形で憂さ晴らしをする社会というのも、うとましいことである。
by katorishu | 2006-05-22 01:27