コラム


by katorishu
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暗示に弱い国民

6月4日(日)
■一日平均して4,5時間、コーヒー店で本や資料を読んだり携帯パソコンで執筆作業をするが、いつも気になるのは煙草の煙である。ぼくは20歳のころから30代の前半までかなりのチェーン・スモーカーで人差し指と中指が黄色く変色するほど吸っていたが、急性肺炎にかかったのを契機に煙草をやめた。以来、酒場などで数本吸った記憶があるが、煙草とは無縁の生活をしている。

■ところが、自分では煙草を吸わなくとも、他人の煙草の煙は相当程度吸っている。近頃では駅や公共施設では禁煙の場所が多くなっているものの、酒場やコーヒー店では禁煙の所がすくない。煙草愛好家からは「禁煙ファシズム」だという声もあがるが、医学的に禁煙のもたらす健康へのマイナス面はつとに指摘されている。
 本日、朝日新聞が社説で「禁煙週刊」についてとりあげ「若い女性を守りたい」というタイトルで煙草の害について書いている。

■若い女性の喫煙は確かに多いという気がする。喫茶店などでも、多くの若い女性が煙草を吸っている。こちらに煙が流れてきて、いやな思いをしたことは数知れない。喫煙が不妊症や流産の原因にもなるほか、妊娠中の喫煙が胎児の異常を引き起こす確率も高いようだ。
 最近、大きな社会問題になっている少子化の原因のひとつとして、若い女性の喫煙の増加があるのではないか。映画やテレビドラマなどで、喫煙のシーンがよく描かれる。確かに役者にとって煙草を吸うシーンは俗に「さまになり」「格好がつく」ので、役者たちも好んでそうしたがる。台本になくとも、しばしば「ここで煙草を吸いたい」と現場で言い出す役者たちも多い。

■本人はそれでいいのだが、映画やテレビドラマなどで格好よく描かれる喫煙シーンが、若者の喫煙傾向に強い影響を与えていることは、容易に想像できる。
 以前、ダイヤモンドの普及のため、「ダイヤモンドの結婚指輪」を流行らせようとした国際シンジケートが、映画やドラマなどのスポンサーとなって意識的に結婚指輪を買ったり相手にはめてもらうシーンをと希望し、それに沿った映画やドラマのシーンが数多く作られた。
 さりげない「宣伝」の効果は絶大で、日本ではいつの間にか、婚約すると夫から「3ヶ月分の月給」に値するダイヤモンドの指輪を妻となる女性に贈るということが習慣化してしまった。007のジェームス・ボンド映画の第一作は『ダイヤモンドは永遠に』であり、これはダイヤモンドの国際シンジケートがバックで仕組んだものである。

■当時、国際シンジケートは、結婚するとき「給料3ヶ月分のダイヤモンドの指輪」をというキャンペーンをアメリカの広告会社に依頼し、アメリカをはじめヨーロッパ諸国でも実施した。このキャンペーンはフランスやドイツなどヨーロッパ諸国では成功しなかったが、日本とアメリカでは成功した。もっとも成功したのはわが日本であり、日本人がいかに広告宣伝に弱い国民であるか、アメリカの広告会社もあまりの効果に驚いたという。
 アメリカ人の書いた『ダイヤモンド神話』という本に出ていることである。ずいぶん昔に出た本で今は絶版になっている。

■今でも、結婚指輪に「月給3ヶ月分」のダイヤモンドの指輪を贈るのは慣例になっているのかどうか。20年ほど前、その話をある出版社で話したところ、その場にいた男の編集者全員が「そういえば3ヶ月分の結婚指輪を女房に買った」と話していた。
 人がやるから、自分も……というのは、日本人の「習性」になっているようだ。(韓国や中国なども似たようなものだが)こんな習性があるためか、業者や政治家などが、たくみに仕組んだ「宣伝」や「暗示」に、当人は気づかないまま乗せられていることが、じつに多い。

■ダイヤモンドの指輪などを販売する業者には申し訳ないが、仮にあなたが100万円する結婚指輪を換金しようと思い、業者のところにもっていくとして、いくらの現金になるだろうか。ダイヤモンドは資産価値があるとして、ナチスドイツの迫害から逃れたユダヤ人が財産をそっくりダイヤモンドにかえて持ち出したことはよく知られているが、100万円クラスの「安物」のダイヤモンドなど、10分の1程度の価値しかない。
 ためしにダイヤモンドの指輪をお持ちなら、業者のところにもっていってみるといいです。1000万円クラスの本格的なダイヤなら貴重品として価値があるが、100万、200万クラスでは、買値の10分の1程度のようだ。
 まだ金やサファイア、ルビーなどのほうが資産としては価値があるというもの。 結婚指輪は一生のものとして、離婚でもしない限り、そうそうは換金しようとしないので、あまり表面化しないが、頭の片隅にこんな知識をいれておいて損はない。

■テレビなどのCMは日本ではすでに「芸術」の域に達しているものがあり、非常に洗練されてきている。さらに「繰り返し」が加わると、見るひとの潜在意識に一種の刷り込みとして定着する。そうなったら送り手としては、しめたもので、受け手の多くは、「見知った」「なじみ深い」ものと感じられ、無意識のうちにCMで触れられた商品に手がのびてしまう。

■商品を買う買わない段階なら害もないのだが、政治的な選択となると、かなり問題である。「テレビ政治」などといわれ、政治家はテレビにいかに多く露出するかが選挙での当選に直結する。この20年ほどの顕著な傾向である。役者なども同じで、繰り返し画面に現れることが、マスの人気に結びつく。で、CMにいかに多く登場するかが、人気のバロメーターになり、金銭にも結びつくので競って出たがる。

■アメリカなどでは一流の役者は一企業のCMなどには出ない。もっともギャラが日本とは桁が違うので、日本の役者たちのCMへの過度の登場を批判しにくいが。
 いいたいのは、日本人がいかに暗示に弱い国民かということである。確乎とした自分自身の生き方、考え方をもっていれば、付和雷同することもないのだが、多くの人は不安なのかどうか、「みんながする」方向に簡単になびいていくのですね。

■さすがに煙草のCMはほとんどテレビ等で見なくなったが、ドラマなどでは相変わらず煙草を吸うシーンが多い。
 煙草の料金は先進国では日本がダントツに安いそうだ。本人だけならいいのだが、周囲にも悪影響をあたえる喫煙である。煙草の料金を今の倍程度にして、そこからあがる税収を、有効利用することも選択肢として考えてほしいものだ。
 倍の値段にすると、煙草の売り上げが半減するそうだが、それで健康を害する人が半減するなら、悪いことではないと思うのだが。

■ところで、テレビなどへの「露出度」である。芸能人の人気投票ならかまわないが、政治家についての支持、不支持の選択では、露出度では決めないという意志をもってほしいものだ。
 特に若い人は日々シャワーのようにそそがれれ各種宣伝、暗示などの仕掛けにまどわされることなく、「一千万人といえども我いかん」の気概をもって生きて欲しいですね。そのためには、骨のある、内容の濃い本を読むことが、基礎の基礎だと思います。
by katorishu | 2006-06-05 01:10