コラム


by katorishu
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今村昌平監督のお別れ会

 7月9日(日)
■5月30日に逝去された今村昌平監督の「お別れ会」が、午後3時より新宿のセンチュリーハイアット東京のセンチュリールームで行われた。葬儀等にいけなかったので、参加した。主催が日本映画学校なので、参加者は映画学校関係者が多かった。もちろん「今村組」のスタッフや、今村作品ゆかりの役者たちも。ざっと見て800人ほどではないのか。

■シナリオ作家の石堂氏はじめ、小学校時代からの友人で親友の俳優、北村一夫氏ほかが挨拶にたった。とくに「イマヘイ」と何度も呼びかける形ではじまった北村氏の挨拶は会場をシーンとさせた。葬儀のとき北村氏は葬儀委員長となって弔辞を読んだとのことだが、そのときは会場が狭く、しかもマイクがなかったので、多くの参列者の耳に届かなかったという。で、この会場で改めて弔辞が披露された。古くからの友人で一緒に映画をつくってきた仲間としての真情あふれた心のこもった素晴らしい弔辞だった。こういう長年の友人をもったという一事だけでも、今村監督は有意義な人生をおくったというべきだろう。

■歌手の坂本スミ子氏が「楢山節考」のラストに流れる歌を披露したりして、もりあげた。明るく華やかに送られることを監督はのぞんでいるはず、という主催者の意図なのだろう。日本を代表する独自の表現をもった映像作家で映画史に太く刻まれる人だが、若い人が案外、今村昌平について知らない。映画監督をめざすといって映画専門学校などにはいってくる生徒でさえそうなのである。

■『今村昌平伝説』(河出書房新社)を書いたおかげで、今村監督の映画作りについては、裏の裏まで知ることができたので、関係者の挨拶などをぼくなりに感慨深く聞いた。
 日本映画学校で脚本の書き方を教えていた時期の教え子が何人かきていた。落語家に弟子入りする若者についてのシナリオを書いた生徒のことは印象に残っていたが、現在、脚本家としてプロの道を歩きはじめているようだ。NHKほかでコントなどをかき、放送されたという。まだ一本立ちとはいかないようで、没になる原稿も多いとか。
 テレビではなかなか自分の描きたいことを描けないので、一方で芝居をやっているという。昔のように1時間ものの単発のドラマ枠がなくなっており、新しい才能は出にくくなっている。局側では脚本家も「使い捨て」と見なしている人も多いようで、「育てる」という気持ちがない。そのため、深みのある脚本を書く前に仕事がなくなってしまう。

■グローバリゼーションの流れの中、とにかく「数字」がとれればなんでもいいという風潮は更に強まっているというべきだろう。「創り手」にとっては、困った事態である。質の高いものより、とにかく「話題性」ばかりをもとめる受けて側の問題でもあるのだが。
 会場で久々に出会った同業のシナリオ作家が、二人とも今度自分が監督して映画をつくると話していた。そのうちの一人、池端俊策氏はすでに緒形拳主演の映画を一作作っているのだが。シナリオ作家や俳優が、映画を監督するケースは増えている。
 よく「映画は監督のもの」といわれるが、やはり自分で納得にいく作品を創るには、監督までする必要があるのだろう。大変なエネルギーのいる作業であり、ぼくなど、すでにそのエネルギーはない。

■シナリオ作家が監督する場合は、もちろん自分でシナリオを書く。自分で書いたシナリオが自分のイメージ通りに映像化されることは稀なので、多くのシナリオ作家は出来たら自分で……と内心思っているにちがいない。しかし、それを実行する人は少ない。
 二人の成功を願いたい。興行的にも、ある程度の数字が出ないと次がつくれないので。
 撮影所のことは「夢工場」などといわれたことがある。なかなか「夢」を描けない時代である。映画に夢を抱き、これを実現できる人は幸せである。

■今村監督に取材したとき、夫人は「(監督と結婚したことが)よかったのかどうか、わかりません。組織の中で映画をつくるのと、今村プロでつくるのとではお金の面でまったくちがいますからね」と話していた。
 今後、今村昌平監督の映画がさらに深く研究され、多くの人に見られることを望みたい。ところで、今村監督に興味のおありの方は、ぜひ拙作『今村昌平伝説』をぜひお読みください。「ここまで書くのか」という内容であり、本日のお別れ会でも、「あそこまでよく書きましたね」と「今村学校」の元生徒たちは話していた。ある書評では「バルザックの小説を読むようだ」と書かれた「力作(?)」です。
 会場に2時間半ほど立ち続けで疲れたので、途中で失礼した。
by katorishu | 2006-07-10 00:30