人情映画の傑作『夫婦善哉』
2006年 08月 04日
■仕事の必要があって映画『夫婦善哉』(豊田四郎監督・森繁久弥、淡島千景主演)をDVDで見た。織田作之助の原作小説の映画化で、モノクロ作品。大阪の船場のボンボンと彼の自堕落さも含めた人間に惹かれる芸者の人情もの。ストーリーは単純だが、男女の相互にかわされる会話には含蓄があり、男女の微妙な機微がユーモラスな味わいのなかに鮮やかに描かれている。
■森繁映画の中で最高傑作といっていいのではないか。『続・夫婦善哉』は以前見ているが、正編を見るのは初めてだった。続編のほうが、より深いものがあったという気がするが。正編も面白く最後まで引っ張っていく。
手前勝手なボンボンと、彼をめぐる船場の実家の事情。芸者あがりを認めない気位の高い実家と、彼女の板挟みにあい、迷いつつバカをやってしまう中年男の心情を、この映画ほど巧みに描いた作品を、他に知らない。(ぼくの見た範囲でだが)
■彼の態度に苛立ち怒り悲しみながらも、どうしても寄り添っていかずにいられない女心を、淡島千景が見事に演じていた。豊田監督の演出力もあるのだろうが、二人のイキのあった演技に堪能した。脇役の浪速千栄子や山茶花究などの味のある演技も、二人をひきたてている。日本映画の水準はこんなにも高かった、とあらためて思う。小津や黒沢ばかりがクローズアップされるが、豊田四郎ももっと評価されていい監督だろう。
■昼間、北千住で脚本アーカイブズの会議。足立区の関係者と意見交換。問題になるのは、お金である。今の時代「文化」だけだと誰もお金をださない。資金がなければ、絵に描いた餅でしかないので、この問題をどうクリアするか。難しい問題である。
終わって宿場町通りの「寿司食堂」で食事をしつつ雑談。終戦直後にでたカストリ雑誌やフェティシズム等々について歓談する。それほど年配ではないのに、T氏はじつにこのへんのことをよく知っている。放送作家、とくに構成作家は雑学の達人でないとつとまらないのかもしれない。もちろん、人間に対するあくなき好奇心がそれを支えているのだが。