コラム


by katorishu
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天才の脳は歪みから生まれる 

 8月9日(水)
■昨日は脳を休ませ食事も制限し、早めに布団に横になるどしたせいか、血圧が正常値にもどっていた。体の仕組みはじつに複雑微妙なものだ。脳の仕組みはさらに複雑微妙で、脳の中で細胞と細胞の戦いが繰り広げられているらしい。自閉症故に特異な脳の働きをする人達のドキュメントをNHKBS2で放送していた。途中から見たのだが、ドイツの放送局の制作で、映画「レインマン」のモデルになった人もとりあげ、その異常な記憶力について触れていた。彼は子供のころから一度耳で聴いた音楽はすべて脳に記憶してしまう。オーケストラの楽器のひとつひとつのメロディまで正確に記憶しており、まるで脳に百科事典がつまっているようである。まさに「人間ワザ」ではない驚異的な記憶力である。

■脳科学者によると、脳は25歳ごろまで発達するそうだ。脳細胞のネットワークが日々つくられているのだが、頭骸骨の容量は限られているので、過剰なネットワークは死滅されていっている。脳細胞のネットワークが新たに生まれ、ほかのネットワークと戦い、あるネットワークは死滅されていく。普通の人の脳はそのプロセスの間に、死すべきものが死に生きるべきものが残り、結果としてバランスがとられ、「常識人」の脳になっていく。ところが、そのバランスがうまくいかず、あるネットワークが死なずに生き残るケースがある。自閉症もこの一種だが、こういう人のなかから「天才」や「異常」がうまれるようだ。

■常識では考えられない異常な記憶力をもち、写真などを見ないでローマ市内の精密なパノラマ図を書いてしまう人とか、一目みただけで精巧な動物の粘土細工をつくる人とか、驚嘆に値する脳の持ち主たちを番組では追っていた。彼等のある人は普通の人のように言語を駆使できない。脳の「普通」のネットワークが形成されないのだが、そのことが逆に本来脳に備わっていた「能力」の保持につながっているようだ。

■普通の人にもじつは潜在的に天才的な脳の働きはあるようだ。しかし、脳のネットワークの「生と死」の過程でそんな働きが失われてしまい、結果として「常識人」の脳になる。
 芸術的な天才、モーツアルトやヒッチコック、あるいはアインシュタインなどは、この種(名前を忘れてしまった)の脳の持ち主である。社交的なことが苦手で周囲からは変人、変わり者として、ともすれば排除されがちだが、こういうなかに「才能」が潜んでいるのである。

■子供の頃、ぼくも一種自閉気味で人とつきあうのが極めて苦手であったので、その種の才能がすこしはあったと思うのだが、大人になるプロセスで矯正されてしまったようだ。今では普通に社交をすることができ、自然の結果として常識的な振る舞いをする人になった。社会人としては結構なことなのだが、「創作家」としてはあまりありがたいことでもない。じっさい、今、書いているものも、どうも「常識的だな」と思えてしまい、筆が進まない。そつなくまとめることはできるのだが、何かが足りないと思い結局捨ててしまった原稿がどれほどあるか。

■長い時間、社会に適応して生きてきたので、普通に生活をできるのだが、そのかわりに何かを失ってしまった、とあらためて思う。人やものごとや現象を、既成の概念で解釈してしまうのである。解釈を加えない子供の目で見ることが大事なのだが、大人の常識が備わってしまうと、これは簡単なようでなかなかむずかしい。
 子供の目、純な目、無垢な目……その視点からこの世界を見ると、「正常」が「異常」に「異常」が「正常」に見えることも多い。この視点を大事にしたいものだ。
by katorishu | 2006-08-10 01:31