コラム


by katorishu
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懸念すべき「言論封殺」の動き

 8月19日(土)
■8月15日であったか、自民党の元幹事長の加藤紘一議員の鶴岡市の自宅が放火で全焼した。屋敷内に腹部を自ら刺したと思われる60台の男が倒れていた。
 どうもこの男が、靖国問題で小泉首相の参拝に反対意見を表明した加藤議員に対して警告、脅しとしてやったようだ。男がまだ口のきける状態ではないので、地元署ではこの男との関連について未発表のようだが、状況証拠としては、「口封じ」の意味合いが強い。

■言論を封殺するテロ……といってよいのではないか。男は「右翼団体構成員」と発表されただけで、具体的な名前や背後関係についても、よくわからない。「犯行声明文」なども見つかっていないので、動機や背後関係などは不明だが、厭な時代になったものである。こんなことで、政府などへの批判がしにくくなると大問題である。民主主義は言論の自由があってこそ機能するシステムである。
 自分たちに気にいらないことをいう人間を、脅しや力で封じ込めるようなことがまかり通れば、民主主義は崩壊する。当局は背後関係をふくめ徹底糾明してほしいものだ。

■これについて、小泉首相は黙殺しているという。加藤議員とはかつての「盟友」であり、現職の自民党員が大変な目にあったのである。加藤議員に電話の一本ぐらいかけてもよさそうだが、ブッシュ大統領の別荘が火事になったときは、お見舞いの一報をいれたのに、無視であるという。情のない人である。こういう人が依然として高い支持率を得ている。どなたが支持をしているか知らないが、今なお4,50パーセントの人が支持をあたえているようだ。不思議な国である。

■この問題に関して、マスコミの扱いも弱いと感じてしまう。加藤議員の事務所や自宅には、脅迫まがいの手紙や電話がこれまで相当数よせられたという。どんな人間がそういうことをするのか。主義主張の違いは言論を通じて行う。それが民主主義社会の基本の基本であるが、それが崩れ始めたということか。
 戦前のような言論統制国家には、そう簡単にもどることはないだろうが、メディア関係者がこういうことで、言いたいことを言わずに自粛したり自主規制してしまうのが、困る。 マスコミ関係者なら十分知っていることだが、すでに日本の言論はかなりの程度、「自主規制」されている。タブーも多いし、事の本質をえぐりだそうとすると、大きな「壁」にぶつかる。利害関係者のもつ「壁」である。もちろん、名誉毀損の問題と抵触する部分もあり、微妙な問題だが、できるだけ自由にもののいえる環境は残さなくてはいけない。

■最近、携帯パソコンにジャズやクラシックの音楽をいれ、それを聴きながら仕事をすることが多い。本日はモダンジャズのバッドパウエル。こういう音楽を聴きながら執筆すると、多少書くものに影響がでるかな、と思ったりする。
 昔はよく、クラシックを聴かせる名曲喫茶にいって原稿書きをしたものである。ちょっとした町には、ゆったりと落ち着ける名曲喫茶があった。渋谷のハチ公から通りをへだてた路地の奥にあった確か「らんぶる」という名曲喫茶も、ぼくの「街の仕事場」のひとつだった。

■渋谷駅の南口のロータリーに面して建っている東急プラザビルの二階のフランセなどでも、今とちがって雑ぱくな印象の喫茶店だったが、隅の席で昼間から原稿書きにいそしんでいる人が何人かいた。放送作家もいたようだが、ぼくがよく顔を合わせる人はNHKの職員だった。そのうち何人かは間もなく辞職して評論家や詩人や物書き、研究者などになった。
 そのうちの一人、漫画評論などを手がける小野耕世氏など当時から顎髭をはやし、独特の風格があった。確か映画『キャロル』の制作にかかわったことで、辞めざるをえなかったのではなかったか。職員の身分で外部の映画制作にかかわることは許さないということで、休暇申請をしたのに上司は許可をせず、結果として「無断欠勤」となり、クビに。監督をした龍村仁氏もクビになった。その後、龍村氏は『地球交響曲ガイアシンフォニー』などの映画で名をはせた。

■当時は、大らかさと同時に、今では考えられない窮屈さも同居していたのである。銀行や商社などでは、妻が仕事をもつのを嫌がった。妻が仕事をするのは夫に十分な給料を与えていないように見られるし、一家で複数の収入があると会社や組織への忠誠心が薄れると考えていたようだ。昭和40年代はまだそんな空気があった。
 戦前の教育を受けた人が社会の中堅として残っていた時代である。今、時代は確かに大きく変わり、「なんでも自由」の空気になった。同時に人々の行動を既成していたモラルも消えた。そうして情をもった人間がリーダーになりにくくなった。
by katorishu | 2006-08-20 03:42