コラム


by katorishu
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映画『サユリ』

 8月22日(火)
■ハリウッド映画『サユリ』を見る。日本の芸者を主人公にしたもので、中国の人気女優、チャンツィ主演。さらにコンリーや日本から渡辺謙や桃井かおり、工藤由貴などが出演しており、公開前、前評判は高かった。しかし、出来上がった映画について、あまりかんばしい評判を聞かなかった。それでも映画館で見ようと思っていたのだが、見逃していた。本日見たのはDVD。最初から暗い出だしで、画面も暗く、ウエットでかなり陰々滅々の作品である。

■貧しさ故に本人がいやがるのに花柳界に売られていく少女の悲しみはわかるが、嫉妬、悪意、裏切り、イジメ……等々が、これでもかこれでもかと描かれる。花柳界には、もっと別の一面もあったはずで、暗さのなかの華やかさ、明るさなども描かないと、「暗さ」が際だってこない。原作は一人の芸者の実体験だが、こんな暗い話ばかりが延々と続いているとは、とても思えない。脚色に際して、大きく変えたと思われる。
 主人公が笑いどころか一度も微笑さえ浮かべることはない。人はどんな悲しみの底にあるときでも、思わず浮かべる笑みもあるし、彼女をとりまく女将にしても、いつもあんなにきーきーしているだけではないはず。
 ひところ、映画で旧日本軍を描くと、「悪の権化」のような兵士ばかりがでてくるが、多くはもっと多彩さをもった人間である。別の角度から見れば「優しい」」人が、大変なイジメをしたりするのである。この映画のトーンは暗く、湿っており、「花柳界」イコール「悪」という概念でとらえている。失敗の原因はこのへんにありそうだ。

■BBCとの合作ドラマやアメリカのテレビ局などとの合作に、多少ともかかわったことがあるので、以下はぼくの実感だが、欧米の制作関係者は、日本、それも伝統文化をあつかう場合、独特の思いこみがあるような気がしてならない。
 哲学風の台詞を織り込むこともよくする。庶民を描くのだから、落語的な台詞などをいれることで、人の世の営みの、おかしさが浮かび、厚みを増すのだが、外国人が日本を描くと、どうしてもパターンの描写になってしまう。日本側から対等の立場で脚本家が参加すれば、もうすこしリアリティがあり、面白いものになったのではないか。
 ハリウッドで以前、制作された『将軍』のようなひどい作品ではなかったが、もうすこし華を描いてほしかった。明るさあってこそ、暗さも際だつはずである。異文化を描くことはむずかしいものだが、国際級のスターを使いながら「もったいない」と感じてしまった。
by katorishu | 2006-08-23 02:02