コラム


by katorishu
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深刻な「脳内汚染」のもととなっているメディア

 8月23日(水)
■寝床は単に眠るための場所ではなく、半分程度、本を読む場所でもある。生来の不眠の「おかげ」でどれほど本が読めたかわからない。朝方にかけ寝床で恐ろしい本を3分の1程度読んだ。『脳内汚染』(文藝春秋・岡田尊司著)。岡田氏は1960年生まれで、脳病態生理学の研究者。京都大医学部卒で、現在、京都医療少年院に勤務している。精神臨床の舞台から、現代の青少年犯罪について極めて説得力ある論を展開している。

■以前から子供の脳がこわれている、とはよくいわれることだが、岡田氏によると、当初はテレビ中毒、ゲーム中毒、さらにネット中毒などで、日本やアメリカだけではなく全世界的に若者の脳が「サイコパス化」しているという。本来動物としてもっている抑止力がこわれかけており、極めて危険な水域に近づいているとのこと。

■岡田氏は、テレビ等の映像メディアに一定時間以上、日々接している子供は、短絡的、攻撃的になり、さまざまな障害が生まれているとと警告する。
 アメリカでの研究で、人が8歳のとき毎日どのくらい長くテレビを視聴していたかによって、20年後のその人の性格や行動までが規定される。テレビを長時間見ていた人は、粗暴で短絡的になり、攻撃的で、動物が本来もっている「禁止のプログラム」が壊れている割合も高いとのこと。

■人間は伝統的にタブーをつくりだし、それが脳のプログラムに組み込まれている。最大のタブーは殺人であり、このプログラムがあるため、人は殺したいほど憎んだとしても現実に殺人行為に走らない。脳の自然の働きとして、「禁止のプログラム」が働くのである。野生動物はしばしば同種同士で戦うが殺すまでに至らないが、これも同様の禁止のプログラムのおかげである。
 ところが、近年、映像メディアが反乱し、テレビやゲーム、さらにはパソコンなどに過剰に接触する人が増えている。ある程度脳が出来上がった成人は比較的、害がすくないが、まだ未熟な脳の子供や青少年が問題である。
 幼いころテレビ等に過剰に接すると、このプログラムが脳内で解除されてしまい、そこから青少年の殺人事件などが多発するのだと岡田氏は論を展開している。殺人に至らなくとも、イジメやレイプなどの犯罪があるが、そういう脳の持ち主が犯す確立が高いようだ。

■特にビデオゲーム等、面白いものが問題である。面白くなればなるほど、そこにはまる率が高くなり、それだけ脳にとって危険な状態になる。青少年の暴力犯罪や問題行動と、テレビを長時間見る子供や、ゲームにのめりこむ子供とは、強い相関関係にあることがデータで裏付けられているそうだ。
 現実の軍事にも、脳の禁止プログラムの解除は応用されており、殺人について何も感じない多くの兵士を作りだしているという。恐ろしいことだ。

■テレビ関係者は公言できないことだろうが、現在隆盛のシミュレーション・ゲームは、ある意味で、麻薬をあたえるのと同じくらい脳にとってマイナス要素があり、極めて危険であるらしい。大手電機会社などもふくめて、ゲーム器械メーカーやソフト制作会社等は隆盛で相当額の儲けをだしているが、現状のまま放置してよいのか、と著者は警告している。

■現在、コカインは麻薬として禁止されているが、ひところ欧米ではコカインは頭を爽快にさせる効果がある、とむしろ奨励されており、決して「麻薬」ではなかった。ところが、中毒性があり、やがて数々の害悪が顕著になったので、禁止された。戦後間もなく日本で「ヒロポン」がはやった。早くいえば覚醒剤だが、これも当初は眠らなくても頭がすっきりすると奨励された。やがて副作用や中毒症状が顕著になり禁止された。
 ゲーム機類、とくに軍事ゲームや殺人ゲームの類も、極めて面白く、のめりこむように様々の仕掛けが凝らされているのだが、じつはこの「面白すぎる」という点が「幼い」脳にとっては害になるのだという。テレビゲーム類もいずれコカインなどと同様、脳に害があるとして問題視されるようになるだろう。

■もっかの所、営利企業の「金儲けの元」なので、研究者の声も封殺されているようだが、岡田氏のこの本を読むと、現在社会をとりまく「快適で」「便利で」「面白い」環境は、特に若い脳にとって致命的であることが、一目瞭然である。
 早急になんらかの公的規制を加えないと、大変なことになる。それほど、子供や青少年の脳にとって、現在隆盛の映像メディアは危険であり、日々「害悪」を垂れ流している。ほとんどの人が異常さと、異常さとして気づかず、またわかっていない。そのことが問題の深刻さを逆に物語っている。
『脳内汚染』は、子をもつ親にとって必読ともいうべき「警世の書」である。ぜひご一読をすすめたい。
 なお、脳内汚染については、大変重大な問題なので、本書や関連書の内容を引用しつつ時折触れていきたい。
by katorishu | 2006-08-24 01:11