映画『雨月物語』
2006年 08月 29日
■珍しく早朝、8時ごろ起床。5,6時間の睡眠だが、頭はすっきりしていた。ところが、声がかすれてうまく出てこない。咽頭癌で手術をした患者が発するようなかすれ声で、ようやく声が出る程度。こういうことも珍しい。本日は午前中、大事な用件があるのだが、これではあまりしゃべれない。民放連会長のところに脚本アーカイブズへの協力をお願いにあがった。ぼくは喉がこんな状態なので、他の委員が話し、もっぱら聞き役。脚本アーカイブズについて、お会いした全員が賛成で意義があるものと強調する。問題は資金である。それをどう捻出するか頭を悩ますところである。
■ついでに六本木ヒルズ界隈をちょっと歩いた。麻布十番あたりにいったのは20年ぶりぐらいであった。あのあたりも大きくかわった。昔は田舎びた雰囲気もあったのだが、今は東京でもっとも「洗練された」一角ということになっており、少々こぎれいになりすぎている。それが受ける時代なのだろう。神楽坂界隈とも違った独特の雰囲気はあったが。
■喉がこんな具合なので、電話を受けてもうまく話せない。こちらから電話をする用件があるのだが、やめにした。仕事もあまりはかどらない。資料読みもだめで、結局、映像をぼんやり見ることになる。
BSで放送された溝口健二監督の『雨月物語』どは、しっかり眼を凝らして見た。江戸時代の作家、上田秋成の幻想味あふれる小説の映画化である。田中絹代、森雅之、京マチ子といった名女優の演技はさすがである。昭和28年の制作で、機材もとぼしい上に、お金もそうそうかけられなかったのだろう、今の映画技術から見ると、ダイナミックさが足りないと思った。ベネチア映画祭で外国映画監督賞を受賞した作品だが、ぼくは溝口作品のなかではあまりかえない。過去、ビデオでも見たが、画面の質が悪く暗いので、最後まで見通すのに骨が折れた。今回も同じ。大きなスクリーンで見たら、ちがった印象をもつのかもしれない。
■溝口作品なら、やはり芸道物や新派風の悲劇がいい。今年は溝口監督没後50周年ということで、「残菊物語」ほかの作品が連続してBSで放送される。時間があればいろいろと見てみたい。本日、0時50分より、溝口監督の『雪夫人絵図』がBSで放送される。船橋聖一の原作で、ぼくは30年ほど前にこの長編を読み、女性描写のうまさに舌を巻いたことを覚えている。文章もうまい。映画化されると、あの味が出るかどうか。船橋聖一は東京生まれで子供のころから、しばしば祖母に芝居を見につれていってもらったそうで、男女の機微等に詳しく、物語展開も巧みである。大変な元手がかかっているのである。東京都といっても八王子の田舎に生まれ育ったぼくなど、とてもかなわない。スタートの地点が違うという気がしたものだ。残念ながら。