テレビをよく見る人は「下層」が多いという説
2006年 09月 21日
■午後、六本木での脚本アーカイブズの会議。そのあと、紀尾井町の千代田放送会館で「放送人の会」の人達と懇談会。「放送人の会」はテレビ界でプロデューサーやディレクターとして「テレビ史」残るような名作をつくった人たちが中心の集まりで、200人ちょっとの人数で構成されている。
本日は、今野勉氏や大山勝美氏ら昭和40年代、50年代に数々のテレビの名作を創った人達が出席。放送作家協会側は市川理事長や南川脚本アーカイブズ委員長ほかが出席。脚本アーカイブズに理解と賛同を得られた。終わって乃木坂にある「コレド」でアルコールを飲みながらしばし歓談。
■出席者の一人が現在のテレビ視聴率は60代以上を対象外にしていると話していた。テレビを現在もっとも多く見ているのは60代以上の人達なのだが、テレビ制作者はこの層は「員数外」としてほぼ「無視」の状態であるようだ。
この層を視聴率の対象にいれると、数字が相当違ったものになる。この層を排した結果が、今のテレビの「惨状」の原因といえなくもない。
「セットインユース」が年々落ちているという。セットインユースとはテレビをつけている家の割合のことで、視聴率が良いといっても、そもそもテレビをつけている家が少ないので、実際にテレビを見ている人の数は減っている。
■ほかの関係者から、現在の地上波テレビは実は「社会的弱者」向けのものとなっているとの意見がでた。必ずしも経済的弱者ではなく、情報面の「弱者」の意味も含む。つまり老人や子供、引きこもり等である。語弊がある言い方だが、今やテレビは「あまり知的でない人」が見るもので、いずれ「テレビをよく見る」というだけで、「下層の文化」を身につけた人……といわれるようになるかもしれない。
テレビを多く見る人はますます知的に劣化し、読書をする人と知的格差は開く一方である。
■視聴率の実態が明かされるとスポンサーのテレビ離れはますます進み、番組の質は一層劣化していくに違いない。すると、ますます、少々知的な層からそっぽを向かれる。
経済的な「格差」が云々されるが、情報面での「格差」、知的思考面での「格差」も相当進んでいるいるといえるだろう。
■今の民放テレビの経営を支えているのは消費者金融である。この一事をもってしても以上の意見が、うがちすぎとはいえないだろう。
映画や演劇が盛んだが、有為な才能はこちらに流れていっているようだ。現在の映画界はちょうどテレビ創成期に似ているという。熱気と意欲、実験精神があり、自分たちの創りたいものを創りたい語りで創る。地上波テレビの番組では無縁のことである。
一方、役者は舞台、とくに小劇場などでの芝居を主力にしており、中堅どころの劇団の役者は舞台公演だけで、なんとか「食っていける」ようになっているという。
■こういう情勢の中で、いかに作家性を発揮しつつ、一方で生活の資を得ていくか。その板挟みになって苦闘している脚本家も多い。
今、水面下で進展しつつある新しい流れに注目したい。テレビばかり見ている人にはわからないが、新しい状況が水面下で静かに進展しつつあるといっていいだろう。
■本日、『北京の檻』(文藝春秋、定価1950円)の見本が届く。1年ぶりの出版なので、手にとり、しばし眺めた。表紙は地味ながら、良い仕上がりだ。9月26日、配本。書店でぜひお手にとって見てください。内容は保証します。