緊迫する北朝鮮情勢
2006年 10月 20日
■北朝鮮情勢から目が離せない。国際社会から孤立した金政権がどういう行動にでるか。本日、中国の外相が平壌で金総書記と会談したとのニュースが伝えられたが、内容は未発表である。一方、アメリカのライス国務長官が日本、韓国と訪問し、北京にも飛ぶ予定という。水面下で激しい外交合戦が行われているに違いない。
■仕事の必要があって日米戦争直前、特派全権大使としてアメリカに飛んだ来栖三郎の「泡沫の35年・日米交渉秘史」という本を読んでいる。すでに軍部主導で開戦が決定しているなか、「交渉」をしなければならない外交官の苦衷がよくでている。
恐らく北朝鮮の国連大使なども、来栖大使と似たような心境なのかもしれない。来栖三郎はナチスドイツとイタリアのファッショ政権と日本が結んだ「三国同盟」の調印者だが、それは形式だけで、じっさいは本土で松岡外相らがナチスのリッペンドロップ外相と同盟を決めてしまったということだ。
北の国連大使は当然、国際情勢がわかっているはずなので、現在の金体制がいかに異常であるか理解できるはず。もちろん、戦前と現在の北朝鮮の体制はまったく違うが、「軍部主導」で「言論統制国家」であり、「国際的に孤立」していた点は同じである。言論統制国家は度し難しというべきである。
■金総書記は肝臓と心臓が悪い上に糖尿病で50メートルも歩くと息がきれ、秘書が椅子をもってついてまわっている、などという情報もある。中朝国境での中国の動きもこれまでと違う。中国では「公共汚染防止」を任務とする特別部隊が編成されたという。北朝鮮の体制崩壊にともなう混乱で疫病がはやったり難民が流入することに備え、現実的に動きだしたということだろう。
金体制の崩壊は近いかもしれない。崩壊すれば百万単位の難民が中国国境に押し寄せ大混乱になる――とテレビなどでコメントしている「識者」がいるが、本日見た朝日ニュースターに出ていた軍事評論家の神浦氏の話では、隣接国は対策を相当練っているしそんなふうにならないという。中国の内部情報に詳しい司会の葉氏も同感とのこと。
■このところ、北朝鮮情勢をめぐっていろいろと憶測が流れているが、どれが本当なのかガセなのか、誇張なのか、あるいは「謀略性」を秘めた情報なのか、よくわからない。
ルーマニア紙は、13年前民衆によって抹殺された独裁者チャウシェスク書記長のような運命を、金総書記もたどるのではないかと報道しているという。多少の混乱はあったものの、あのときは比較的平穏に独裁者は退陣した。
民主主義体制をとっている南の韓国によって朝鮮半島の統一がなされるのが、一番よい結末であろうが、どういうことになるか予断を許さない。中国が手をこまねいていると、ロシアのプーチン大統領が動きだし案外イニシアティブをとるかもしれない。漁夫の利というやつだが、外交面で中国は相当したたかなので、うまい解決策を行使するかもしれない。いずれにしてもここ一ヶ月ほどで、東アジア情勢は激変する可能性が強い。
■八幡山の大宅文庫で調べ物。コピー料金等で9000円ほどかかった。コピー料金は一枚100円、そのほかに入館料をとる。それが館の維持費となっているのである。戦前の貴重な雑誌を読めコピーできるのでありがたい存在だ。20代と思われる若い女性で数十ある席が埋まっていた。雑誌や番組制作のなにかのデータ集めをやっている新米編集者やアルバイトのデータマン、あるいはフリーの編集者――と思われた。
■大宅文庫では1988年以前の雑誌は書誌情報がデジタル化されていない。一方、これ以降の書誌情報はデジタル化されている。彼女たちのうち、1988年以前の情報をさぐろうとしている人はほとんどゼロに近かった。ぼくも含め中高年の男性が数人いたが、昔の雑誌を検索している人に、若い人はいない。
黄色に変色し「とりあつかい注意」の袋にはいったりしている戦前の雑誌は、じつに面白く、教えられる。いつの間に数時間が過ぎており、目がしょぼしょぼ。
「北京の檻」を読んだ方から、メールや電話をいただく。いずれも「大変面白かった」とのこと。書き手として励まされることである。読者あっての本である。
■そういえば昨日、日韓ドラマセミナーの食事会のとき、インターネットの2ちゃんねるなどの話になった際、比較的若手の脚本家は「けなされると気になってしょうがない」と話していたが、同じテーブルに座っていた山田太一さんはこういっていた。「ぼくは一切、そういうものは見ません。けなすためだけのサイトがあるそうですが、たとえどんなに才能がある人でも、お前は駄目だ駄目だといわれ続けると、本当に駄目になってしまう。人間て弱いものなんです」
その通りである。インターネットなどにかかわらず、手書きの原稿でマイペースで仕事をされている山田太一さん。以前は常連の書き手であった山田さんも、今のテレビでは書く枠がなくなっており、舞台や小説に比重を移している。この秋、久々に山田さんのスペシャルドラマがテレビ朝日から放送されるとのことだ。
アナログに徹底的にこだわる。それもひとつの見識だと思ったことだった。