コラム


by katorishu
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

クリント・イーストウッド監督作品「父親たちの星条旗」のすごさ

 10月29日(日)
■クリント・イーストウッド監督の最新作映画『父親たちの星条旗』を渋谷の渋谷ピカデリーで見た。太平洋戦争での激戦地のひとつ硫黄島でのアメリカ軍の戦いで、戦闘の勝利の証として国旗を島の山の上に立てた兵士たちの話だが、よくある「戦争美談」などではない。星条旗を立てた6人の兵士はアメリカ国内で「英雄」として賛美されるが、戦争の真実とは遠いものだった。戦争につきものの「英雄美談」の裏に隠された「事実」を、ドキュメンタリー・タッチで鋭く追求した問題作である。

■星条旗を打ち立てた「英雄たちの写真」は戦時国債をアメリカ国民に買わせるための手段に利用されていく。ショービジネスの手法を応用したキャンペーンであり、兵士たちは徹底的に利用されるのである。当然、マスコミがあおる。素朴な青年たちである兵士たちは戸惑い、苦悩する。戦時における「英雄行為」や「美談」は、日本の「爆弾三勇士」をはじめ、戦意高揚のために「作られた」ものである場合が多い。

■硫黄島でのアメリカ軍の勝利を象徴する「星条旗」も、「やらせ」に近いものだった。戦闘場面はリアルで強烈な印象を与える。戦争というもののもつ非人間性をクリント・イーストウッドは鋭く見つめながら、「銃後」で展開される人々の思惑などもえぐりだす。戦争と宣伝についての面妖な関係についても浮かび上がらせる。兵士の一人はいう。「彼らは祖国のために戦ったが、祖国のためにではなく戦友のために死んだのだ」「戦地でやったことで、誇れることは何一つなかった」などという言葉は重い。

■かといって、よくある紋切り型の「反戦映画」でもない。人種問題などもはさみつつ微妙なところをついた、よく出来た映画である。太平洋戦争で、アメリカが軍事費が枯渇し、かなり追いつめられていたことを、この映画であらためて知った。
 12月には、同じクリント・イーストウッド監督が硫黄島の戦いを日本側から描いた『硫黄島からの手紙』が日本で公開される。こちらは渡辺謙主演で、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した同名のノンフィクションをもとにしている。

■同じテーマについて、敵味方の領国再度から2つの映画作品を作り上げたクリント・イーストウッド監督のエネルギーと才気は大変なものだ。音楽も担当している。1930年生まれだから76歳。その年で、これだけダイナミックで問題を鋭くえぐる作品をつくるのである。「定年になったら遊んで暮らす」などという人とは、人間のスケール、格が違う。同時に、こういう映画を作ることができるアメリカという国のすごさにも思いがいく。「ブッシュ政権のアメリカ」はアメリカの一面でしかない。懐の深い国であると、あらためて思ったことだった。
 多くの日本人、とりわけ昭和という時代についてあまりよく知らない若い世代の人にぜひ見てもらいたい映画である
by katorishu | 2006-10-30 02:12