コラム


by katorishu
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懸賞ドラマの最優秀作『風の来た道』に好感をもった

 1月8日(月)
■7日、NHKで放送された単発ドラマ「風の来た道」をDVD録画で見た。第30回創作テレビドラマ脚本懸賞公募の最優秀作で、作者の林一臣氏は52,3歳のはず。
 脚本家への夢を実現するため四国に家族を残して単身上京。シナリオライタースクールなどに通い、応募し、昨年度受賞した。贈賞式でぼくもお会いし激励したことを覚えている。木訥で温厚篤実そうな人で、いわゆる「作家」らしくない、サラリーマンという印象の人だった。

■受賞作はタイトルを一部改題し、黒川芽以、石田えりが主演し、西名真一が演出。生活保護をうけている母娘家庭が舞台である。高校生の娘は「保護」を受けていることで学校でイジメにあったりする。父親は愛人をつくって出て行った。そのため、11年にわたった母が働き一人娘を育ててきた。現在、母は病気がちでそのため生活保護を受けているのだが、娘の将来を考え、ときどき仕事をしている。生活保護を受けていると、仕事をしたことをいちいち民生委員などに申請しなければならない。母は、毎日ではないからと申請を怠っていたが、誰かの告げ口でわかってしまう。

■一方、娘は密かに父親と連絡をとっており、あるとき父親から携帯電話が送られてくる。それで父と娘の通信ができるのだが、学校で携帯をもっていることが同級生にわかり「保護」をうけている分際で携帯なんてと、携帯をプールに投げ込まれてしまう。
 娘は音楽の才能があり、オーケストラ部に所属してフルートを吹いている。ボーイフレンドなどもいて、やがて彼女のなかで東京の音大を受験したいという夢がふくらむ。
 一方、母親は娘を介護士かなにかにして、手元におき、二人で幸せに暮らしたい夢をもっている。

■父親の出現などもあって、母と娘の「夢」がぶつかり合い娘は家出したりする。
 最後は母が娘の気持ちを思い、娘の好きなようにさせるとこことで終わる。よくある話といえば、いえるが、さわやかな風を感じさせる作品で、好感がもてた。
 リアルな描写で、いわゆる「スター」がいない。演出もリズムがあった。ラストはもうすこしどうにかならなかったのか――と物足りなさも残るが、オーバーアクションばかりで、あざとい演技、演出が目立つ昨今のテレビドラマの中では、かえって新鮮みを覚えた。
「生活保護」といわず「保護」とだけ出演者にいわせていたが、なにか理由でもあるのかどうか。隣近所の内情までがわかる「地方都市」の雰囲気もよくでていた。

■テレビドラマ全盛時代は、この種の一時間枠の単発ホームドラマも数多くあった。1時間の単発枠がなくなったころから、テレビドラマの劣化が進んだという気がする。
 以前は東芝日曜劇場が1時間の単発を毎週放送しており、ホームドラマの牙城でもあった。ぼくも何編もこの枠で脚本を書いている。当時この枠には地方局制作も3分の1ほどあり、ローカルカラーがでいてそれぞれ味があった。新人脚本家の「登竜門」の役割も果たしていたのだが。

■今は「経済効率」ばかりを考え、連続ドラマか2時間ドラマ全盛である。というより、ドラマ枠そのものが急減している。短編できりっとした締まりのある作こそ、脚本家も演出家も出演者も技量を試せるので、1時間の単発ドラマ枠の復活を期待したい。
 NHKでこそ、定時のこういう1時間のドラマ枠をもうけて放送するべきである、と改めて思った。ともあれ、林一臣氏の「新しい門出」を祝福したい。林さん、よかったですね。先行き茨の道だと思いますが、とにかくねばり強く続けて「人間」を描くことに力を傾けてください。そうしてドラマは深いものを表現できるのだということを、「ドラマなんてくだらない、見ない」という人にも知らしめてやるといった気概をもって進んでください。
by katorishu | 2007-01-09 00:37