クリント・イーストウッド監督の「硫黄島からの手紙」を見る
2007年 01月 11日
■渋谷で映画『硫黄島からの手紙』を見た。最近の映画で最大の話題作であり、あのクリント・イーストウッドの監督作品なので、ぜひとも映画館で見なければと思っていた。硫黄島の戦いをアメリカ側から描いた『父たちの星条旗』とツイになっている映画で、こちらは見ていたが、「硫黄島からの手紙」は見ていなかった。2作ともに見ないと映画の本質に迫れない。
■『父たちの星条旗』のときも感じたが、さすがハリウッド映画だと思った。これまで欧米など外国から日本軍の戦いを描くと、きわめて紋切り型、類型的な描き方がほとんどだったが、この映画は『アメリカ人監督としては」非常にクールに戦争の実情を見ていて感心した。実体験者によれば「戦争はあんなもじゃあなくてもっと悲惨だ」という意見も当然でるだろう。
■しかし、これはドキュメンタリーではないので、リアルさを競っても無理というもので、「よく頑張ってここまで描いた」というのが、ぼくの実感である。渡辺謙扮する栗林中将より、むしろ二宮和也演じるパン屋の兵隊が主人公ととれる描き方だった。
生な「反戦思想」や「国粋思想」、さらには「アメリカ的価値観」から切り取っていないのも、興味深かった。経費が足りなかったのか、日本兵の数が少々少なかったことと、栗林中将の内面にもっと迫れたら、とは思った。
■更にアメリカ側からの作の焦点となった、擂り鉢山にあがる星条旗のシーンを日本側の作にも登場させて欲しかった。あの星条旗を見て、日本兵がなにを思いなにを感じたか、そこにこそフィクションの醍醐味があると思うのだが、そこはなぜか避けていた。
物足りなさもいろいろとあるが、こういう映画をつくれる「アメリカの度量の広さ深さ」それに「資金力」には率直にいって羨望を覚える。
■それにしてもクリント・イーストウッド監督の旺盛な創作意欲にはいつも敬服する。80に近い年齢でなお世界の第一線で活躍する姿勢がすごい。作年秋、BSで往年のアメリカのテレビ映画「ローハイド」を放送しており、そこに若き日のクリント・イーストウッドがカーボーイ役で出ていたが、これほどの監督になろうとは、誰も思わなかっただろう。ブッシュのアメリカは嫌いだが、こういう映画を見ると「アメリカの底力」を改めて実感する。映画の内容というより、むしろクリント・イーストウッド監督のエネルギッシュな姿勢に大いに刺激された。