コラム


by katorishu
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睡眠薬とつきあって15年

 1月18日(木)
■北千住での脚本アーカイブズの当番の帰路、品川駅港南口の珈琲店で執筆作業をはじめ1時間ほどしたとき、急に睡魔に襲われた。睡眠薬を飲んでいると、よくあることで、うとうと眠りとは違う深い睡魔である。30分ほど眠りこけていた。目が覚めると深い睡眠をとったあとのような気分になっている。

■子供のころから不眠気味で、中高学生のころはよく眠れたのだが、大学に入学したころから、慢性的に不眠症が続く。
 当初はアルコールで眠るようにしていた。しかし、これだとすぐ眠れるものの3時間ほどで目がさめてしまい、その後が眠れない。そのため、週のうち4日ほどは「時差ボケ」状態だった。15年ほど前、仕事でアメリカへいったとき、ドラッグストアで売っている睡眠薬をいくつも買って飲み始めた。すぐに眠れるのだが、起きてから頭がボーッとした状態が続き、副作用もあるようだった。

■そのためクリニックにいき、初めて睡眠薬を処方してもらった。以来、平均して一週間に3日か4日は睡眠薬を飲む。体にあわず頭がボーッとしたり、口の中が苦くなったりしていたが、あるクリニックでレンドルミンを処方されたところ、これが体に合うようで、副作用もほとんどなくなった。今はそれとレスリンを併用している。それでも毎週飲み続ければ、なんらかの副作用があるに違いない。現に時々、しゃべっていて口がもつれることがある。

■本当は眠れなくともいいから、睡眠薬など飲まないほうがいいのだが、すると、睡眠不足で仕事にさしつかえるし、時差ボケ状態で過ごすことになる。
『遺書配達人』などで知られる作家の有馬頼義が典型的な睡眠薬中毒で、朝から珈琲と一緒に白い睡眠薬をぼりぼりかんでいた、と渡辺淳一がエッセーに記していた。有馬頼義は確か、自殺したと記憶している。まだブロバリンやハイミナールといった睡眠薬が主流で、当時は処方箋なしでも薬局で買えたのではないか。

■ひところ自殺の手段としてガス自殺と睡眠薬自殺が多かったが、現在、その二つとも改良がほどこされ、自殺の手段から姿を消した。かわって、鉄道への飛び込み自殺が増えている。自殺に至る人はごく少数派であるが、人は自殺をする前に不眠症になっているのだろうか。少なくとも鬱の状態であったに違いない。

■日本人の3割は不眠に悩まされているという。ストレスの多い社会だから不眠になるという意見があるが、ぼくは必ずしもそうは思わない。一定のパーセントで、よく眠れない因子をもった人が生まれるのではないか。
 統合失調症(分裂病)は100人に1人の割合で生まれる、と医学博士の肩書きをもつ知り合いから直接聞いたことがある。同じように、よく眠れない人も一定の確立で生まれるのだと思う。もちろんストレスが不眠の傾向を助長することはあるにしても。

■マイナスの因子をもって生まれついた人間は、むしろマイナスを逆手にとって、プラスに転化するよう努力をしたほうがいいのだろう。
 ぼく個人に関しては、もし不眠症でなかったら今ほど本を読んだであろうか。布団に入ってから眠りにつくまで2時間も3時間もかかるので、その間、仕方なしのように本を読む。それが仕事の面でどれほど役だったかわからない。逆に睡眠不足で損をしたことも多く、さしひきプラスマイナス・ゼロ……といったところか。

■仮に不眠症とは無縁の人間であったら、物書きにはならなかったと思う。どちらがよかったのか、わからない。それにしても、横になると数分で眠れる人が羨ましい。そういう人には不眠症の辛さはまったくわからないに違いない。
by katorishu | 2007-01-19 01:29