コラム


by katorishu
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真夜中のライオン 

 2月7日(水)
■有線テレビのナショナルジオグラフィックをよく見る。深夜、炬燵で居眠りしたあと、番組の途中から見たのだが「真夜中のライオン」というイギリス制作のドキュメントで、サバンナの夜にくりひろげられる「生きるための」戦いを躍動的にとらえていた。
 10頭ほどのライオンの夜の生態を追っていくのだが、大きな水牛をしとめたあと、食べるために群がるライオンは貪欲で、互いにいがみあい、みんな軽い傷を負う。貪欲さを失ったら死が待っている。

■食欲を満たすと一転して、互いに舌でなめあって「毛繕い」をはじめる。群れが協力して生きるための大事な「儀式」のようで、見ていてホッとする。
 雨期のサバンナにはいろいろの動物が生まれていて、「食物連鎖」のなかで、今の人間から見たら「むごい」光景が続く。いろんなシステムや文化等々で「本質」を隠しているものの、人間社会も動物の生存本能と無縁ではなく、「ただ生きるということ」が大変な「事業」であることを思い知る。ぼくなど、サバンナの動物であるとしたら、恐らくライオンに食べられる側の「草食動物」であるに違いない。「文弱の徒」など、そんなものである。

■脚本アーカイブズの会議のあと、赤坂でカミサンともども中国通のOさんに会い、いろいろと興味深い話を聞く。昭和19年生まれのOさんは、東京にある中国人のつくったIT関係の会社の社員だが、日本人はOさん一人。中国人社会が、この一年ほどで急激に変化していることを実感している。中国人について興味深い話を聞いた。 
 日本でIT技術を磨いた中国人でも33歳を過ぎると、中国で就職することはむずかしいという。そのため、日本に帰化することを希望する中国人も多いらしい。中国本土、といっても東北地区だが、男は54,5歳、女は52歳ほどで「定年退職」になり、年金などもあまり発達していないので、老後の生活は子供に頼る人が圧倒的に多いそうだ。

■日本にいる中国人技術者は主張すべきことを自信をもってはっきりと主張し、それに見合う仕事をする。例えば20代半ばの青年で、年収600万、700万は当たり前であり、日本の同年齢のサラリーマンの倍の給料をとる。そのほか、ぼくの現代中国についてもっていた「常識」をくつがえされるような話をいろいろと聞いた。
 ボーダレス化は急速に進み、数年前の「常識」がすでに「常識」ではなくなっているようだ。この半年の変化はすごいとのこと。時代はじつに激しく動いていることを実感する。

■Oさんとは最近出会った。拙著の『北京の檻』を朝日新聞の書評で知って読んでくれていて、当然、話が弾んだ。知的で誠実そうな人である。彼は自分のことを「ぼくは文系の技術者」と話していたが、ぼくの周辺にいないタイプ。逆にぼくは恐らくOさんの周辺にいないタイプなのだろう。昔、出した『山手線平成綺譚』という短編集もぼくの作品と知らずに読んでくれていた。著者として、こんなに嬉しいことはない。「読まれてこそ本」であるのだから。これもなにかの縁なのだろう。4時間半ほどがまたたく間に過ぎた。だらだらとどうでもいい繰り言ではなく、実のある会話の出来た日は、心にしみる本や映画を読んだり見たりしたあとのように心地よく、新たに何かを書こうという意欲がわく。
by katorishu | 2007-02-08 04:20