教育予算を削って何が「教育再生」なのか
2007年 02月 16日
■某病院に理学療法士についての取材に行く。いわゆるリハビリを指導する専門職で、今注目されている仕事である。体の全体的な機能、とくに脚の機能回復に関わることが多い。指をつかったいろいろな作業を指導する「作業療法士」とはまた別の職種で、事故などによる外科的疾患ばかりでなく、脳溢血、くも膜下出血等で、手足が不随になってしまった人が対象になる。
■高齢化の進展とともに、リハビリを受ける患者は激増しているとのこと。意外であったのは、案外若い人がリハビリの対象になっていることだ。30代、40代でも、過労、ストレス等で、脳内出血、脳梗塞等の脳疾患をおこす人が、最近増えているとのこと。
食生活の変化で肥満や高血圧を発症している人が若い人でも多くなっており、それも一因なのだろうが、やはり過剰なストレスが要因であるようだ。リハビリ現場は現代社会の縮図といえる。
■理学療法士は患者と一対一で1時間、リハビリを行うが、忍耐力のいる作業である。体力を使うし「体育会系ですよ」と理学療法士氏は話していた。
高齢化社会のもと、この分野の需要は今後増える一方だろう。加齢とともに発生する疾患は、どうしようもないことかもしれないが、飽食や運動不足をやめ、節制を心がけ、ストレスをその人なりに解消させる術を身につければ、発症を防いだり、遅らせたりすることができる。
俗な言い方をすれば「医者と坊主にあまり儲けさせない」ことが大事である、とリハビリを受けている患者たちの姿を見て改めて思ったことだった。
■都内で「最貧区」とありがたくないいわれ方をしている足立区では、しばらく前から小中学校ので学芸会が行われていないという。教師の経験のある友人の脚本家から聞いたのだが、現場の教師たちは「それどころではない」と話しているという。学芸会をやれば、それなりの経費がかかるし、なにより学力低下や「学級崩壊」で、そんな「文化的催し」をできる状態ではないのだという。対人コミュニュケーション力を養ったりするのに、学芸会などは絶好のチャンスなのに。
■本日発売の週刊文春に教育評論家の尾木直樹氏が『「日本の教育予算」は先進国中最低』といった特集記事を書いている。尾木氏は、安倍内閣の肝いりで発足した「教育再生会議」が1月24日提出した第一次報告について「〇点」であると厳しく指摘し、なのに、報告書は政府の教育予算についてまったく触れられていない、憤っている。最新のデータによれば、日本の教育支出は、GDP比3,7パーセントでOECD諸国のうちトルコと並んで最低であるという。
■予算の伸びも悪く、95年から03年の9年間で教育支出の割合は各国平均で1,3ポイント伸びているのに対して日本は逆に0,4ポイント減少している。安倍首相はイギリスの教育改革を目標にしているとのことだが、イギリスはブレア政権が誕生した97年、国の教育予算が約3兆5000億円であったのが、07年には15兆円にまで急増させたという。国家的な「共有財」である教育に税金をつぎ込む姿勢が顕著なのである。一方、。今度の報告書には、学校や親に対する提言ばかりで、政府への要求がまったく記されていないという。「教育再生」という標語ばかりが、むなしく踊る。
■教育予算が削られたために、教育の現場では、例えば図書室は貧困そのもので、さらに教員の研究費や教材費も減額の一途。学校では文房具さえ独自に購入できないシステムになっている、と尾木氏は指摘していた。
足立区で「学芸会や文化祭も出来ない」状態の背景には、そんな政府の姿勢がすけて見える。イギリスのエリート校をモデルにした私立海陽中学が愛知県に開校したが、年間の学費と寮費をあわせると約300万円であるという。これだけの教育費を支払える家庭は今の日本では一握りの人たちである。子供が2人いれば600万で、もちろんそれ以外の費用もかかる。
結局、安倍政権の教育政策は「富裕層」に幅広いチャンスをあたえるだけで、「教育再生」などにならない、と尾木氏は断じているのである。
■一部の者が富めばそれに引っ張られて貧乏層も浮かび上がるという経済政策同様、教育の面でも一部のエリートが育てば、全体に底上げされると考えているのだろう。これは大きな間違いであることを、早くさとって欲しいものだ。すでに社会の随所に「崩壊現象」が起きているが、日本の未来を占う教育の現状がこんな調子では、日本の未来はない。