コラム


by katorishu
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「ケモノの社会」を生きるフリーランスは社会の縮図

 2月23日(金)
■放送作家協会の理事会と、そのあとの総会に出席。テレビ業界のかかえているさまざまな問題について、熱い議論になったりした。
 インターネットの急速な普及と進化によって、「放送」という概念がかわりつつあるようだ。放送作家協会の会員ではあるが、ぼく自身、自分について一度も「放送作家」と名乗ったことはない。フリーになって以来、テレビやラジオに脚本家として関わってきたので「脚本家」といっている。放送作家という場合、一般的には「構成作家」のことを指す場合が多い。情報バラエティやワイドショーなどの構成を担当するのが構成作家で、ドラマについては脚本家というのが通例になっている。

■インターネットの普及で「脚本・台本」の概念もかわってきているようだ。以前はほとんどの番組に印刷された「台本」があったのだが、最近は印刷をはぶき、パソコン画面に映像と文字をいれて「台本」とすることが多くなっている。技術スタッフなどにはそれを印字してわたすのである。従って、これまで脚本・台本を専門に印刷してきた印刷屋が職を失い、過日もある台本専門の印刷屋が倒産した。

■一方で、構成台本などを専門に書いていた人の仕事も激減している。テレビドラマ枠も以前に比べたら随分と減っているので、書き手の活動する舞台も機会も減っている。一方で、ドラマを書きたい人は大変な数にのぼっている。需給のアンバランスがひずみを起こしているのである。
 経費節減と共に質の高いものを求めなくなったテレビ局側の問題もある。(その裏にはもちろん、視聴者の質の問題があるのだが)。
 プロの構成作家に台本執筆をたのまず、ディレクターや内部のスタッフが自分でパソコン上に書き、それをもとに制作をすすめていくことが多くなっているようだ。

■そんな流れの中で、こんな悲しい話を聞いた。放送作家協会の維持費は会員がおさめる月1000円の会費でほとんどまかなっている。もっとも貧乏な公益法人だが、その会費の滞納者も増えている。最近、病気になり仕事ができないので、ほとんど収入がない会員から、会費納入の猶予の申し出があったそうだ。一定期間、会費を払わなければ除籍されるという規定になっている。ただし、病気の場合、病院の診断書があれば病気の期間中、会費納入を猶予される規定がある。ところで病院の診断書を作成してもらうには5000円かかるという。その会員はその5000円が出せないので、診断書がなくとも猶予できないかとのことだった。協会は任意団体であり、規定に反すれば自動的に退会になる……という意見があったが、それではあまりに「冷たい」という意見があり、特例として診断書ではない書類でも猶予ということに決まった。
 想像だが、彼が社会とわずかにつながっている細い糸が、放送作家協会員であるかもしれないのである。他人事ではないな、という会員の声もあった。
 「あるある大事典」の構成作家も会員で、彼は相当の収入があるそうだが、一方には、こんな貧苦にあえぐ会員がいる。

■さらに安価な制作費でつくろうとす組織も多く、台本等の執筆を一定の「最低額」をもうけている協会員以外の人に発注するケースも多い。それが、番組の質に濃厚に反映される。本日接した同業者が一様に口にするのは、自分たちがそこで禄を食んできた「テレビの劣化」である。もちろん、これはすごいと思わせる番組も時折り流れるが、安直なつくり方をしている番組が多い。作り手に問題があると同時に、そういうものを求める見る側にも責任がある。
 
■毎日毎日あれだけの情報を24時間流しつづけている上、低予算で「数字」をあげなくてはならないカセがあっては、そうそう良質な番組をつくれるワケがない。
 テレビばかりでなく日本全体に通じることだが、システムがどうもおかしくなっている。システムの恩恵をうけ、ぬくぬくと暖衣飽食の生活を送っている人も東京には多い。
 もちろん、それはごく一握りの人で、テレビ業界ひとつとっても、末端で一番大変な労働をしている人たちは、生存ぎりぎりのところにあるケースが多く、病気になったりしたら、生きることもむずかしくなる。

■決して能力や努力が劣っているわけではない。(もちろん、劣っている人も数多いが)能力、努力ともたいした違いはないのに、システムの恩恵を受けている人と、受けていない人との「落差」は許容できないほど開いている。
 弱肉強食のケモノの社会を生きているフリーランスの人の中にこそ、社会の矛楯が凝縮されているといっていいようだ。いろいろと考えさせられる理事会、総会であった。
by katorishu | 2007-02-24 12:59