ウッディアレンの異色のラブサスペンス映画『マッチポイント』に感嘆
2007年 02月 27日
■仕事の打ち合わせで久しぶりに三軒茶屋にいく。以前、ここから歩いていける圏内に住んでいたので、よく足を運んだ町だ。若者と老人が混在している町として東京でも比較的住みやすい一角である。パブリックシアターやシアタートラムなどの劇場があるのもいい。
■打ち合わせが終わって、以前よく執筆をしたコーヒー店で3時間強仕事をしたあと、三軒茶屋シネマで映画『マッチポイント』(ウッディアレン脚本・監督)を見た。夜間割引きで700円という値段設定もいい。昭和30年代を思わせる古びた映画館でロードショー落ちの映画を2本立てで上映している。椅子はボロボロで固く座り心地は悪いが、ここで見た映画は味のあるものが多かった。隣の三軒茶屋中央劇場での上映も含め、毎週1本強は見ていた。
■以前と同じで、本日の観客も10数人。しかし、ウッディアレンの映画「らしくない」ラブサスペンスの味わいのある作品で文句なしに面白かった。イギリスの上流家庭にはいりこんだアイルランドの貧しいテニスのインストラクターのラブサスペンスである。テニスのネットにぶつかったボールが「向こうに落ちるか」「こちらに落ちるか」は運であるが、それによって窮地においつめられた人生が、ドンデン返しとなる。巧みな伏線がもたらすラストは鮮やかで、うなった。ウッディアレンの従来の作にあった「衒学趣味」が姿を消し、「これがウッディアレンの作品か」と訝るほどの異色作で、緊張感があり、存分に楽しめた。
■ニューヨークが舞台にすると、どうしてもウッディアレン自身の分身が登場し、コミカルな味わいか哲学的な味わいのものになるのだが。ロンドンが舞台なので思い切って違う味わいのものに仕上げたのだろう。
あらためてウッディアレンの才能に驚嘆する。省略をきかせたキレの良い演出と、味のある台詞、巧みな構成。アメリカ映画といえば「ハリウッド的ご都合主義の大作」が目につくが、こういう意欲作も数多くつくられている。なんだかんだいいながら「アメリカのすごさ」を改めて感じる。
■ネオコン主導のブッシュのアメリカや金融資本家などにつらなる「成金」には嫌悪を抱くものの、アメリカ文化の多彩さ豊穣さには敬服する。
ボーダレス化の進むなか、この先、どこの国でも多文化、多民族化がすすむだろう。多用な価値観が混在し、多彩な選択肢のある社会こそ、願わしい社会である。「覇権主義」「成金主義」からアメリカが早く脱出して欲しいもの、と映画館を出たとき思ったことだった。
■アカデミー賞に地球温暖化への警告をテーマにして「不都合な真実」が長編ドキュメンタリー部門で受賞したという。作品賞のグランプリは「ディーパーデッド」だった。ぼくはミュージカル映画「ショータイム」か硫黄島をあつかってクリント・イーストウッド監督作品がグランプリを受賞するのではと思っていたのだが、はずれた。「不都合な真実」の受賞は環境破壊に警鐘を鳴らす意味で、よかったと思う。受賞作はいずれも見ていないので、近々見るつもり。