コラム


by katorishu
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住むならやっぱり大都会 

3月3日(土)
■雛祭りである。東京は穏やかな天気で、この日にふさわしい日であった。殺伐とした世の中だが、年中行事の日はほっとしたものを覚える。
 品川駅構内のコーヒー店で古い文学仲間のAさんと久々に会って歓談。ご夫人同伴だった。「香取さんのブログ読んでますよ。だから10数年ぶりにあうのに、そんな気がしない」とのこと。このブログ、思いがけない人が読んでいるので、記すときそれなりの配慮や注意がいる。

■もっとも日々記しているといっても、その日に出会った人や出会った出来事、電話などで話したこと等、記すのはごく一部であり、「記さなかった」こと「記せない」ことのほうがはるかに多いのだが。取材などで情報源の秘匿は鉄則であり、取材したことそのものを明かせないこともある。
 物書きを生業にしているので、入ってくる情報もそれなりにあるが、そのまま公開するわけにもいかない。毎度、記そうか記すまいか躊躇し、結局、「さしさわり」があるので記さないことになり、映画演劇の印象批評などになりがちである。

■ところで、Aさんは長いこと地方で学習塾をやってきたが、少子化の影響などをモロに受けているという。某宗教教団が学習塾の経営に乗り出しているという興味深いことについても聞いた。恐らく母子ともども「信者」獲得の一環として行っているのだろう。
 PRの時代なので、宗教も政党やビジネス同様、人を集めることに躍起になっているのだろうが、学習塾にまで乗り出しているとは。勧誘の方法も、やや目をひそませるもののようで、一度取材をしたくなった。
 Aさんによれば地方の経済停滞は看過できないほど深刻のようである。品川駅の港南口あたりは高層のインテリジェントビルや高層マンションが建ち並び、かなりバブリーな様相を呈しており、そんなところで働く三菱重工他大企業のサラリーマンめあての「高級店」も増えている。この界隈や丸の内、銀座、六本木あたりを見ていると、「どこが格差社会なの」という気分になるかもしれない。しかし、光あれば影があるのは「公理」であり、都内でも「生活保護をもらえたらまだ幸せ」といった層が確実に増えているのである。

■24時間営業の漫画喫茶やマクドナルドなどにいってみると、そこを「宿がわり」にしている人も多いようだ。げんにぼくの自宅から近いところにある24時間営業のマクドナルドには初老といってよい女性が、恐らく毎晩のように深夜から朝方まで居眠りをしているようだ。その女性は品川図書館にいくと毎回目にするので見知っているのだが、たまに深夜、パソコンをもってマクドナルドにいくと、必ずといってよいほどその女性がいて居眠りしているのである。

■もしかしてホームレスなのかな、と思ってしまう。さっぱりした衣服を着て、紙袋ほか手提げ袋をもっているが、この人の過ごし方は尋常ではない。図書館で過日、隣にすわった彼女の前に置かれた本を見たところ、モーツアルトの研究本であった。いつも紙切れになにかを書いているのだが、判読不能の文字ともいえない「文字らしきもの」である。
 彼女はしばしばビデオを借りて見ているが、画面に映像が映っていないことも多い。
 ほかにも50過ぎと思われる男性も図書館の常連だが、図書館が終わると午後11時ごろまで営業しているコーヒー店に必ずいる。その人はいつもパソコンに向かっているので、あるいは「同業者」かもしれないが、いつも一人で長時間、図書館とコーヒー店にいる。相手も、こちらを「変なヤツ」と思っているのかもしれなが。

■彼が会話をしている姿を見たことがない。携帯などで話していることもない。運動不足なのか、食べ物によるのか、最初見た頃より、ずいぶん太ってきている。以前、駒沢に住んでいたときも、昼間コーヒー店にいくと必ず姿を見る中年男がいて、この人も太鼓腹の太りすぎで、息をするのも苦しそうだった。

■どんな過ごし方をしても、その人の自由なのだが、いずれの人も孤立した印象で表情の暗いのが気になる。そういう人とは対照的に、数人できている主婦のグループは一様に声高に明るく食べ物や旅行の話をしている。よく観察していると、そんな談笑に、明らかに表面だけ「のって」いると思われる女性もいる。何人かが去って例えば二人きりになると、先ほどの「明るさ」とはうってかわって深刻な会話になったりする。最近のコーヒー店は昔と違って座席と座席の間が狭いので、自然に隣の会話が耳にはいってきてしまうのである。
 たまに足を運ぶコーヒー店などからでも、世相が読み取れて「物書き」としては興味深い。やっぱり、人と人とがうごめき、ひしめきあい、光と影の交錯している大都会は面白いし、書く素材も無数に転がっている、と改めて思ったことだった。
by katorishu | 2007-03-04 00:19