コラム


by katorishu
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マクドナルドで毎晩「寝泊まり」している老人

 5月9日(水)
■北千住の脚本アーカイブズ準備室で南川氏とともに、読売新聞の鈴木編集員の取材を受ける。鈴木氏は長く芸能関係の記者をしており、昔からの知り合いである。解説部に所属していたのだが、最近、編集委員になったとのことで、いろいろと情報交換をした。向田邦子氏の若い時代のラジオ・エッセーや「おかめひょっとこ」というコメディドラマ脚本も脚本アーカイブズに保存してあるので、それも話題にのぼった。
一週間以内に、脚本アーカイブズと音声アーカイブズのことをからめた記事が読売新聞に載る予定だという。

■新聞社の編集委員というのは、記事やコラムを書くのが専門で、記者とちがって時間に追われることが少ないので、比較的じっくり対象に取り組める。
 以前、作家の日野啓三氏のお宅にうかがったことがあるが、当時、日野氏は読売新聞の編集委員だった。「編集委員というのはフリーに近い存在ですね。週に三日ほど出社すればいいのです」と語っていた。それでちゃんと給料も出るのである。いい身分だなと思ったことだった。だからこそ、日野氏は勤めながら小説や評論を書けたのだろう。そういえば、昔、夏目漱石なども朝日新聞の「社員」として、新聞の連載小説を書いていた。
 
■帰路、東銀座駅で途中下車し、喫茶店で資料読みと執筆作業をした。折から、新橋演舞場と歌舞伎座の終演時間であったので、「裕福そうなオバサン」の姿が駅周辺に目立った。ぼくの入ったコーヒー一杯540円の喫茶店にも、70近いと思われるオジサン、オバサンが6人ほどはいってきて、すぐ隣でおしゃべりをはじめた。食べ物とスイス他への海外旅行の話が中心だった。結構な年金や退職金、株などで「優雅な老後」をすごしている人たちなのだろう。「自分の楽しみだけに」生きるのもいいが、もうちょっと社会の問題にも目を向けてもらいたいと思ったことだった。話し声が大きく耳につき気が散るので、早々に店を出た。

■夜の12時過ぎ、気分転換に近くの24時間営業のマクドナルドにいった。毎晩、その店で夜を過ごしているオバサンが、過日いったときは見かけなかったので、ちょっと心配になった。病気にでもなったのでは――と思いつつ入ったところ、テーブルに額をつけて居眠りをしていた。近くのテーブルでは70歳前後と思われる男女が、やはりテーブルに突っ伏すようにして眠っていた。恐らく夫婦なのだろう。かなり疲れている様子であった。
 こんなところで、深夜寝ているところを見ると帰る家がないと解釈すべきだろう。家賃を払えずに追い出されたのか。あるいは事業にでも失敗して夜逃げしてきたのか。年も年だし健康には悪いのに、どうしようもない気分なのではないか。気の毒なことである。

■それでも、新宿あたりのホームレスとはちがって、マクドナルドで食べ物を買うお金はもっているのだろう。いつも見るオバサンは必ず180円の紅茶類をふたつテーブルに置いて目を閉じている。そうやって朝の九時に図書館が開館するのを待つのだろう。つまり360円で一晩過ごすのである。
 恐らく5万円ほどの国民年金はもらっているだろうが、それだけで生活するとなったら、都会ではこういう過ごし方しかないのかもしれない。

■ネットカフェや漫画喫茶で生活している青年も多くなっているらしい。40歳、50歳の中年の姿も見られるという。ネットカフェは時間制なので一晩過ごすと2000円ほどになる。そこにも入れない老人が、マクドナルドで毎晩、寝てすごす。
 夜の12時すぎに行くと、必ず60代後半から70代と思われる人が何人か座っている。中には競馬新聞をにらんでいる人もいる。家はあっても一人暮らしの孤独から逃げ出すため、マクドナルドにやってくるのだろうか。
 マクドナルドの別の席では青年が携帯パソコンでネットサーフィンをしていた。なんだか現代日本の縮図を見る思いである。
by katorishu | 2007-05-10 02:08