イラク戦争での米兵死者が3500人を超えた
2007年 06月 10日
■イラク戦争開戦(03年3月)からの米兵死者が7日までに3500人を突破したという。アメリカはイラク駐留米軍を約3万人増派する態勢を近々完了するが、「治安回復」につながらない。6月に入ってすでに20人超の米兵が死亡するなど反米武装勢力の攻撃は激化している、と毎日新聞ウエブ版は伝えている。
■当初から懸念されていたように、ベトナム戦争と同じように泥沼化して、にっちもさっちもいかない状態になっている。増派された軍による治安回復作戦をバクダッドなどで展開するということだが、一時的にその地域の治安を回復したとしても、イラク全体にひろがった反米感情をくつがえすことは難しいにちがいない。米兵の死者はさらに増加し、アメリカ国内のブッシュ批判も増大するだろう。
■結局は軍を退くしかないのだろうが、そうするとアメリカの不倶戴天の敵であるイランの影響が、イラクばかりでなく中東全域におよぶおそれがあるので、アメリカとしては引くに引けないようである。
アメリカのスノー大統領報道官はこのほど、「米軍のイラク駐留は韓国がモデルになる」と語ったという。ブッシュ米大統領が長期化するイラク駐留を、朝鮮戦争後の在韓米軍になぞらえていることを明らかにしたもので、これがアメリカの「真意」であるに違いない。
■戦闘部隊のイラク撤退後も軍の駐留が長期化する可能性を指摘したもので、そうなると、やがてアメリカとイランが直接戦火をまじえることになりかねない。
国際問題研究家の田中字氏などが早くから指摘していることだが、ブッシュ政権を支えるネオコン等の真意は、世界を多極化させ、国際緊張を持続させることであるのかもしれない。
■ユダヤ人が第二次大戦後につくったイスラエルという国の存在を抜きには考えられない政策である。住民を力で追い出してつくった「人口国家」イスラエル。ナチスの大迫害をうけ、自分たちの国家をつくりたいと願うユダヤ人の強い思いはわかるが、果たしてあの地に強引につくる必要があったのかどうか、今でも疑義を呈する専門家もいる。いっそ広大な土地を有するアメリカ国内につくったら、中東の情勢は別のものになっていただろう。
■地上の土地は資源は限られており、もう「未開の地」はない上、地上の人口は増え続けている。「アメリカの民主主義こそ最高の価値をもつ」としてアメリカが宗教的情熱や使命感をもって、自分たちの価値を世界にひろめようとする限り、紛争や戦争はなくならないだろう。かといって、アメリカが仮に海外から兵をひきあげたらどういうことになるか。アメリカの「力」によって、かろうじて秩序が保たれている国も少なくない。アメリカという「重し」がとれてしまえば、そういう国で何が起こるかわからない。
■「だから俺たちの軍が治安を守る必要がある」というのがアメリカの理屈なのだが、困った事態である。アメリカの力の政策から国連を中心にした「平和維持」に軸足を移していかなければいけないのだろうが、アメリカ自身にその気持ちがない。なにしろ、自分たちの価値観こそ最高で、これを世界にひろめることが「善」であるという「宗教的使命感」が多くの国民の間に宿っているのであるから。
■ローマ帝国は自らの「強さ」によって滅びたといわれるが、「現代のローマ帝国」アメリカも「強さ」によって滅びの道に向かうかもしれない。そうならないための「バネ」が現代アメリカ社会にはまだ残っていると期待したいものだ。次の大統領選挙ではおそらく民主党の候補が選出されるだろう。それまでにアメリカ・イランが戦争が起こらないよう、せつに願いたいものだ。アメリカ・イラン戦争が起これば石油価格は急騰し、中東の石油に依存する日本は深刻な影響をうける。