コラム


by katorishu
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指導層こそ読むべき「労働白書」

 8月3日(金)
■2007年の労働経済白書が発表になったが、「景気回復」がいわれる中、「賃上げや労働時間短縮に結び付いていない」と分析している。
 株主配当金が増える一方、人件費の割合を示す「労働分配率」が低下しているのである。国民の圧倒的多数をしめる労働者の収入があがらないことは、経済成長を維持するためにマイナスであり、結局は企業や株主にも負の作用をおよぼす。そのことも白書は指摘している。

■小泉政権は中国の「先富論」と似た論理の経済政策をとってきたし、安倍政権もその延長線上にある。富める者からまず富み、その恩恵を貧しいものにもたらすことで全体の底上げを狙うというものだが、中国ではうまくいっていない。富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなる構図が出来上がっている。これは現代中国の最大の問題かもしれない。

■資本の論理の本質は「弱肉強食」であるといっていいかと思う。具体的には合理化であり効率化であり、とにかく「数字」をあげることが最優先され、その障害になることは容赦なく切り捨てる。「情(なさけ)」などは邪魔でしかない。人を「(金儲けの)道具」とみなして徹底的に非人情を貫いた企業が、この10年ほどで「急成長」していることを見ても、わかる。
 強く懸念される傾向である。貧富の差が極端に開くことは社会を不安定化させる。イスラム原理主義がこの何10年かで「復活」しているが、背景には先進国との開く一方の格差がある。

■戦後日本の「奇蹟の経済発展」をもたらしたのは「一億総中流社会」である。一部の強者が「一人勝ち」するのではなく、富を分け合うという精神が、推進力となった。経済成長が果たして良かったことなのかどうか、「?」もあるが、総中流社会の中で多くの人間が幸福感を抱いたことは確かである。幸福感を抱けたからこそ、一歩も二歩も前に進めた。

■今、幸福感を抱けない人々が増えている。山あり谷ありが人生の「真実」であり、「幸福感」など持続するものではなく、たまさかに訪れればいいのだが、「たまさか」にもやってこない人が増えているのである。人の幸不幸は、多分に心理的な問題であり、貧しくとも幸福な人はいるし、豊かでも不幸な人がいる。しかし、満足に結婚し子供も作れないような劣悪な経済状況では、幸福感を抱きようもない。それが普通の人の感覚というものである。

■政府や大企業の指導者などは、労働白書のもつ意味を深くかみしめ、アメリカ式の経済原理主義政策を見直して欲しいものだ。今度の参議院選挙で大勝した民主党が、そのへんを土台にした「政権構想」を打ち出すことが出来るかどうか。
 多くの国民にとって最大の関心事は、俗な言い方をすれば「いかに食うか」である。為政者のまずやるべきことは「食えない国民」を一人でも減らすことである。この原点を忘れて「理想」を説く為政者はいずれ失脚する。

■「食えなければ」人は「食う」ために何でもする。それが「生き残り」のための本能のようなものである。
 それがむき出しになれば、モラルもなにもない。まさに「ケモノの世界」である。これは「和」を大事にする日本文化に馴染まない。ケモノの世界に「文化」は生まれないし、育たない。政官財の指導層は今回の労働白書を熟読し、深く考えて欲しい。ほとんどは読みもしないだろうなと思いつつ、敢えて強調したい。
by katorishu | 2007-08-04 02:52