コラム


by katorishu
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

マイケル・ムーア監督の最近作「シッコ」は面白い

8月26日(日)
■昨日、マイケル・ムーア監督の新作『シッコ』を品川プリンスホテル内の映画館で見た。
 アメリカの「歪んだ」医療保険システムに取り組んだ意欲作で、大変興味深かった。先進国で国民皆保険制度がないのは、アメリカだけで約5000万人の無保険者が存在する。

■手の指先を二本切り落とした人が、病院へいったところ、無保険なので一本の指をくっつける手術に760万円ほど、もう一本の指は140万円ほどかかるといわれた。その人は安い方の指だけの手術を依頼したケースとか、入院中に医療費が払えない患者が、ホームレスのシェルターの前に放り出されるケースなどなど、これが世界一の経済大国アメリカの実態なのかと驚くようなシーンが展開される。

■すべて、マイケル・ムーア監督本人が直撃インタビューし、独特のユーモアで対象に迫る。マイケル・ムーア流の「形」を会得し、ますます張り切って社会の病理に切り込んでいる。その姿勢は頼もしい。
 アメリカは民間の医療保険が全盛だが、とにかく「数字」をあげることが至上命令のようで、いざ病気になっても保険会社はなんとか保険金を支払わないよう、あの手この手を駆使する。ちょっとした「既往症」の記入もれを見つけて、なんとか保険の支払いをしないですむように懸命の民間の医療保険。とにかく、ぶったくって、支払いにはさまざまな障害をもうけ、経営者に儲けをもたらすシステムである。

■こういう制度をつくったのは、ニクソン大統領の時代で、ニクソンが医療関係者の幹部とやりとりする映像を暴露的にさしはさんだり、いかにもマイケル・ムーアらしい展開。
 アメリカは命の根源にかかわることをもビジネスの観点で見てしまう。市場原理主義経済の病理が人の命にかかわる分野にも及んでいるのかと、驚きの連続である。

■アメリカに対して隣国のカナダやフランスの例がもちだされるが、こちらは基本的に医療はただであり、必然の結果として平均寿命も高いし、金持ちでない人びとの表情も明るい。困っている人がいたら助ける。それが「当たり前」のこととして機能しているカナダやフランス。豊かな人が貧しい人を助けるのは当然という「常識」が定着しているのである。そのため、安心感がアメリカとは比較にならない。

■ある人の友人はハワイ旅行していて負傷したが、保険がきれていたので、700万円以上の支払いをもとめられたという。そのほか、キューバのグアンタナナモ基地のアルカイダ等の囚人への「手厚い」医療なども対比させて、経済的利益最優先のアメリカ医療ビジネスを皮肉る。マイケル・ムーア監督どくとくのユーモアが加味され、よくある「告発」ものにない味わいがあり、大変面白く、2時間近くの上映時間が短く感じられるほどだった。

■アメリカ式医療が近年、日本にも持ち込まれている傾向は懸念される。助け合うという精神文化が日本にはあったのである。アメリカ方式をマネして、こうした文化を失ってはいけない。
 それにしても、こういう作品を作れるアメリカ文化には敬意を表したい。
 シネマGAGA!、シャンテシネ、新宿ジョイシネマ、シネ・リーブル池袋ほか全国で上映中とのこと。多くの日本人、とりわけ医療関係者や政治家などにぜひ見てもらいたい作品である。
by katorishu | 2007-08-26 22:58