コラム


by katorishu
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 安倍首相辞任劇にまつわる権力闘争 

 9月18日(火)
■なんとか風邪は治った。クーラーにやられたという気分である。無駄にしてしまった時間をとりもどそうと、しゃかりきに執筆と資料の読み込み作業で一日はつぶれる。その間、週間朝日の最新号と週間ポストを買って拾い読み。

■「安倍逃亡」というタイトルのもと週間朝日が安倍首相の突然の辞任劇について特集をしている。ジャーナリストの上杉隆氏の記事は、このところ冴えている。「官邸崩壊」を最近上梓した人で代議士秘書やアメリカの通信社勤めの経験もあり、つっこみも鋭い。数多い新聞やテレビ局の「社員記者」とは違い、体を張って取材していることが読み取れる。

■社員記者もそれなりに優秀なはずなのだが、多分「記者クラブ」制度のもと、爪をとぐくことを忘れてしまうのだろう。いろいろなところに配慮する習慣が身についてしまってつっこみの浅いものになりがちだ。詳細は週間朝日の記事を読んでもらうとして、安倍首相は「人事権」を手放したことが愚挙につながったと上杉氏は分析し、さらに母親洋子氏が体調をこわして入院したことも痛手であったと記している。

■晋三氏は酒ものまず、遊びもせず、細心というより小心な「坊ちゃん」なのである。政治家になるタイプでもないし、まして一国の指導者である首相になるだけのタフさも覇気も胆力も本来備わっていない。こういうある意味で「善人」を、おだてて総理にまつりあげた周辺の人間が悪い。

■自民党関係者に次々裏切られ、孤立していく様子がよくわかる記事である。元議員はこう語ったと上杉氏は記す「かわいそうに、結局、晋三さんが最後に頼る人物は自民党にいなかったんだ。皮肉なことにそれが野党の小沢だとはね」
 初出馬の直前、晋三氏は母親の洋子氏にともなわれて、当時自民党の実力者であった小沢氏を訪ねたという。父、晋太郎氏の無念を知る小沢氏は、この親子に優しく接し、何かあったら遠慮なく訪ねてくること、そのときは力になると約束したという。

■辞任会見で小沢氏との会見を断られた――といったことを晋三氏は語ったが、背景にはそういうことがあったのである。周囲から次々に裏切られ孤立無援となった晋三氏が最後の頼みとしたのは、かつて母親と共に訪れて小沢氏であったとは……。
 なにやら切なくも悲しい風景であり、脚本家としては十分同情をひくと共に作品の素材になる対象だと思う。

■一連のことで安倍夫婦の仲も悪くなっているらしい。晋三氏を政界にださせ総理を目指させたのは、岸信介の娘の洋子母である。この女性の「怨念」の犠牲になったといえるのではないか。しかし、「昭和の妖怪」といわれた信介と晋三では、玉がちがう。
 晋三氏は深く傷つき、政治家として回復することはむずかしいのではないか。安倍晋三氏のような性格の人間は、権謀術数のうずまく「永田町」など離れて、もっと穏やかな人の住む世界で暮らしたほうがいい。

■それにしても権力闘争というのは凄まじい。たまたま古代のすさまじい権力闘争にまつわる「ドキュメント」の脚本を書いているので、一層その感を深くする。今も昔も政治の本質は「権力闘争」である。そこでは水に落ちたイヌは容赦なくたたかれる。心優しい人間、デリケートで感受性の豊かな人間は「政治」の世界などにはいるべきではない、とあらためて思ったことだった。
by katorishu | 2007-09-18 23:59