劇団かに座、公演「海と日傘」を見た
2007年 11月 18日
■午後、月に一度の割で教えている脚本塾の講義。最近、生徒数が減っているようで、本日の基礎コースの受講者は一人。ちょっと驚いた。受講者は20代の少女漫画家。スランプに陥り書けなくなってしまったので、脚本の書き方を基礎から学ぼうと思ったという。「個人教授」のようになり、半分は雑談になってしまったが、得るものはあったはず。
■夕方、横浜馬車道にある関内ホールで、カミサンと劇団かに座95回公演「海と日傘」を見た。松田正隆作(第40回岸田國士戯曲賞受賞作)で、癌で余命3ヶ月を宣告された妻と作家である夫の愛情物語である。控えめに奥ゆかしく、言葉をつむぎだす「古き」「良き」時代の家庭劇の典型で、現在が失ってしまったものが蘇る。
■説明台詞が少なく、人物のちょっとした言葉、しぐさが大きな意味をもつ。精妙に組み立てられた芝居なので、演ずるほうもむずかしい。アマチュア劇団のかに座がどこまでこなすか、それも見所であった。主演の馬場さんはじめ、みなさん、「素人」とは思えないほど味のある芝居をしていた。以前より上手になった――という印象をまずもった。プロの役者とはひと味ちがった、素朴な味わいをだしていて、心地よかった。
■ただ、観客に十二分に「ドラマ」が伝わったかというと、やや疑問符が残る。演ずるのに「難しい戯曲」だなと思った。松田氏はもちろん、かに座のために書いたのではなく、プロの劇団向けに書いている。こういう作品に取り組んだ意欲に敬意を表したい。昨今の台詞過多でオーバーアクションのドラマや映画に少々うんざりしていたので、爽やかな印象を抱いた。言いたいことを抑制して、とどまる。そこから人と人との関係の深さの味がでる。基調にあるのは「静謐さ」である。これを今の日本人は決定的に失ってしまったな、と改めて思った。
■それにしても、アマチュア劇団で95回の公演というのはすごい。主宰者の田辺氏の忍耐強い情熱は大変なものだ。地域の「文化度」の高さは、かに座のような劇団があるかないかで決まってくるともいえそうだ。これは毎年行われている「神奈川県演劇フェスティバル」の参加作品でもある。意気に感じて、かに座のためにオリジナルの「家庭劇」を書くことを約束し、すこしずつ書き進めている。他の仕事が諸々あるので、なかなか進まないが、今年いっぱいにはあげるつもり、と田辺氏にはお話した。明日が「楽」だというが、皆さん、頑張ってください。