コラム


by katorishu
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明治座、川中美幸公演で癒された

 1月12日(土)
■東京は朝から冷たい雨。青山一丁目で仕事の打ち合わせのあと、虎ノ門で執筆作業をし、新橋でカミサンと待ち合わせ、浜町の明治座に行く。途中、水天宮近くの甘酒横町というところを初めて歩いた。江戸情緒の名残が感じられる一角で、郷愁を覚えた。

■明治座の公演は「富貴楼のお倉」という舞台で、川中美幸主演。二部は川中美幸の歌謡ショー。数人の出演者ほか知人が深くからんでいる舞台なので見にいったのだが、疲れた脳を十二分に癒してくれた。客層も俳優座や紀伊国屋ホールなどの舞台とは違って、「生活感」あふれる人が多かった。ぼくの前の男性は襟がすり切れていた。隣の男性も魚河岸から直接かけつけたような風情だった。

■川中美幸のライブ公演は初めて見たのだが、大変な「ショーマンシップ」の持ち主であると思った。なにより語りがうまい。間の取り方がいいのである。スターになった人に特有のオーラがあり、満杯の1300席の観客をまきこむ。

■明治座の舞台を見るのは二度目。一度目は前川清と梅沢富美男の舞台で、このときは仕事がらみのこともあってガラスで隔離された「幹事席」で見た。こちらは大衆演劇の本道をいく「口建て」の芝居で、それなりの面白さがあった。川中美幸公演のほうはきっちりした脚本のもとにアドリブなどはなしである、と関係者から聞いた。

■明治初期の横浜が舞台で、料亭の女将と客の政治家や浮気性の旦那とのからみの中で展開する。商業演劇の勘所をおさえた舞台であり、連日大入り満員であることもうなずける。
 多分ほとんどのお客は、4時間ほどの間、異空間に遊び、癒しをえて明日からの生活に希望をもって生きていくのだろう。最後の川中美幸の挨拶は泣かせるものだった。お互い生かし生かされる関係を強調していた。川中美幸という芸人は、人を中傷したりけなしたりすることによって、恐らく密かな愉しみを得る人とは対極にある人だとあらためて思ったことだった。

■明治座は今年で創立135周年だという。PRめくが「論座」3月号(2月1日発売)の拙作のノンフィクション「妖花」の主人公、竹久千恵子は明治座と縁の深い女優だった。3月号では菊池寛の推薦で千恵子が商業演劇の初舞台を踏む時期をあつかっている。演劇の老舗の松竹と当時としては新興の東宝との激しい確執についても記しています。興味のある方はぜひお読みください。
by katorishu | 2008-01-12 23:51 | 映画演劇