コラム


by katorishu
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後期高齢者医療制度、優しさのない政策

  4月7日(月)
■後期高齢者医療制度の評判がよろしくない。小泉政権のときに成立した制度で、要するに医療費のかかる「老人医療費」を削減することが目的で、75歳以上の年齢の人を「特別枠」におしこめ、年金から医療保険費を天引きするというものである。

■高齢者の医療費増は深刻な問題だが、この制度は端的にいって「現代の姥捨て」といってもよく、働けなくなったお年寄りは社会に過重な負担をかけるから、あまり医療機関に通わず、衰えたら早く死んでくれ。そうすれば若い層が助かる……といった思想が根底に流れている。

■身体障害者に関しては61歳から75歳の人が、この制度に組み込まれるとのことだ。「社会に有用でない人」はなるべく早くあの世にいってください、といっているようなものである。「国のため死んでくださいお年寄り」といった諷刺の川柳があるそうだ。年金を満足に支払っていない状況がまったく改善されていないのに、年金から天引きする。「年金崩壊」の被害をもっとも多く受け、もらえるべき年金がどこかに消えてしまった人たちは、「後期高齢者」に該当する人たちに多い。

■優しさに欠ける制度である。一部にはとびきり富裕な老人もいるが、老人の半数ほどは、それこそ爪に火をともすようなかつかつの生活をつづけているに違いない。1000円2000円が、大きな負担となる老人層もいるのである。厚生労働省のお役人が考え小泉政権がそれを認め立法化したのだが、こういう制度の設立にかかわった人たちは、一回ゴルフにいくより安いじゃないか、といった感覚であるのだろう。

■公務員の年金はきちんと整備され、もらいそこねのないようになっている。まったく、自分たちに甘く、他人に厳しい。こいう制度を考えつくる人たちは、庶民の痛み、苦しみがわからないのである。時代劇によくでてくる悪代官と彼らが二重うつしに見えてくる老人も多いに違いない。
 どうも、日本全体に「他人の窮状や困難を思いやらない」風潮が蔓延しているようだ。「自己責任だろ」「能力がないんだからしょうがないよ」「俺たちがなんで役立たずの老人の病気の面倒をみなきゃいけないの」といった考えの若年層、壮年層も多いに違いない。

■彼ら老人が身を粉にして働いてきたからこそ、今の「繁栄」があることを、忘れてもらっては困る。真面目で不器用な職人肌の老人が、今、困窮層に多いという気がする。残り少ない余生を、心おきなく、のんびり過ごさせる、最低限の環境もつくれなくて「世界第二の経済大国」が泣く。もっとも、経済面でも日本は下落の坂をころげつつあるのだが。

■もちろん、遊びほうけ、酒や博打にくるって文無しになった老人もいるだろう。しかし、そういう人もひっくるめて、「同じ日本人じゃないか」「助け合おうよ」という空気が、すくなくともバブル経済前あたりの日本にはあった。だからこそ、日本は世界でも稀にみる「中間層」の厚い国だった。

■国民の9割が「中流意識」をもつ国など、世界に例のないことだった。これは世界に誇ってよい日本の美点であったのだが、今は見る影もない。
 昨日発表されたOECDの報告書でも、日本の経済格差問題に懸念を表明している。異例の事態といってよい。日本国内にいると気づかないが、そのくらい今の日本は危機的状況にあるということだ。このままいくと、日本全体の活力が減速し、社会やモラルの劣化もすすむ。政財官の指導層はOECDの報告を深刻に受け止め、「わがこと」として、有効な政策を打ち出して欲しいものだ。

■本日は徒歩でいける範囲のコーヒー店などで仕事。どうも気分がはれず、当然のことながら脳の働きも鈍く、無駄な一日になってしまった。佐藤春夫が昔「厭世家の日曜日」という短編を書いているが、ぼくも「厭世家」に傾きつつあるようだ。みんな、雨もよいの、すっきりしない天候のせいにしておこう。
by katorishu | 2008-04-08 00:26