コラム


by katorishu
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日本軍の軍費調達を担った、アヘン王についての資料発見というニュース 

8月16日(土)
■テレビや新聞の一面トップニュースは、いずれも北京オリンピックでの日本人選手の活躍で占められている。4年に1回の「お祭り」であり、それはそれで結構なのだが、新聞ならその隣の記事とか国際欄などにも、眼を通したほうがいい。

■本日、朝日新聞夕刊の一面左に、「中村、200背銅」という写真と見出し記事にならんで、「アヘン王 巨利の軌跡」という記事が載っている。日中戦争中、中国占領地でアヘンの流通にかかわり「アヘン王」と呼ばれた里見甫(さとみはじめ)に関する貴重な資料が、日中双方で「新発見」されたとのことだ。

■旧日本軍がアヘン販売の原案をつくっていたことを示す資料で、日本側資料は国会図書館内にある毛利元大蔵官僚の旧所蔵文書に含まれていた。文書によると三井物産が中東からアヘンの輸入を開始したという。当時、日本には「興亜院」があり、日本の傀儡政権、「中華民国維新政府」内に興亜院のアヘン担当部局がおかれていた。

■文書は里見が記したもので、それによると、1941年だけで、アヘンの取り扱い高は現在の金額に換算すると約600億円にのぼる。維新政府に限っての数字である。
 中国での日本軍の軍事費の相当部分は、軍の特務部が主導するアヘン売買でまかなっていた。昭和史の研究家などにとっては「常識」となっているが、この事実をあまり知らない人が多い。

■戦時中、大蔵官僚であった大平元総理も、中国、満州でのアヘン関連業務にかかわっていたということを、30年ほど前、昭和史関連の本で読み、ショックを受けた記憶がある。そのころから、昭和史、とにく昭和前期の日本に興味を持つようになった。戦前、戦中の軍関係のことは、敗戦直後に関係者が膨大な資料を焼却してしまったので、不明な点も多いが、まだまだ解明しなければいけないことも多い。

■ところで、中国側の資料は愛知県立大学の倉橋教授が、南京の第二歴史トウ案館で発見したとのこと。こちらは日本軍の特務部の作成文書で、アヘン中毒患者の救済を名目に使用許可制とする布告文案をつくり、維新政府に示していた。文書によると、中国の江蘇省など3省で人口2500万人ほどに対して3%がアヘン中毒と推定。維新政府の収入を現在の価格で約111億円と見積もっていた。

■傀儡の「維新政府」だけで膨大なアヘン収入をあげていたのである。満州では、どのくらい膨大なアヘン取引等がなされたか。歴史の闇に埋もれてしまった「真実」「事実」も多いはずだが、ときおりこういう形で事実の断片が浮かび上がる。
 こういう事実は昭和史の「歴史的事実」として、もっと学校などで教えたほうがいいと思うのだが。

■里見甫についてはノンフィクション作家の佐野真一氏が大著「阿片王 満州の夜と霧」に詳しく書いている。発売後、ぼくはすぐに書店で買ってきて読んだ。極めて面白いもので、興奮した。佐野氏は綿密な取材で周辺を固めるとともに「キーパースン」とも接触し、歴史の背後で暗躍した人物の「生身の人間」像を浮かび上がらせることに定評がある。現役のノンフィクション作家として、もっとも信頼すべき書き手の一人だ。

■つい最近、氏は満州映画をつくり関東大震災のとき大杉栄と伊藤野枝を虐殺した張本人とされる甘粕元憲兵隊長の「闇と真実」に迫るノンフィクションを出版した。読まなければと思いながら、なかなか時間がなくて、まだ読めていない。
 佐野氏が今度の「発見」についてコメントを新聞に寄せている。里見は極端は秘密主義者で、「右手がしていることは左手に教えるな」という言葉を生涯の行動規範としてきた人だという。本人がアヘン取引について自ら記した文書が見つかったのは初めてのことだそうで、貴重な発見である。
 こういう記事を読みつつ、オリンピックの女子マラソンにも多大な興味をよせる。たぶん、テレビの実況中継を見るのではないか。野口選手の欠場を補ってあまりある活躍を他の二人の日本女性に期待したいものだ。
by katorishu | 2008-08-16 19:49